第13話:新しい道を求めて…
昭和20年代も後半になると戦後の混乱も一段落し、温泉地にも賑わいが戻ってきた。世の中はすっかり欧米文化に満ち溢れ、新しいものを求める風潮が流れていた。そんな中に鳴子のこけし産業に大きな影響を与えるものが忍び寄りつつあった。「新型こけし」である。この「新型こけし」は昭和23年に白石の業者が作り始めた「どんここけし」が始まりで、その後横浜での平和博覧会に出品されて人気を博し、全国に広まったものである。こけしとは言うものの、形や描彩に制約は無く、色々なものを自由に作れるということで、旧来の「伝統こけし」を凌駕する勢いで作られていた。鳴子の土産物屋の店頭にも並び始めた新型こけしは伝統こけしを押しのけるように売れていった。
20歳台半ばに差し掛かった福寿は、これからのこけし作りに思い悩んでいた。若くて好奇心に富んだ福寿にとって、今の鳴子こけしは形態・描彩とも変化に乏しく面白みに欠けるものであった。そんな折、土産物屋の店頭に並び始めた「新型こけし」に興味を惹かれた。その自由な発想で作られたこけしに福寿は無限の可能性を感じたのである。「さて、どんなものを作ろうか!」と思った時に福寿の頭の中に浮かんだのは、秋田・新荘時代に父盛が作っていた「モンペこけし」であった。
< 8寸2分(s29) >
こちらが福寿の新型こけしとしては初期のものと思われる。大きさは8寸2分。胴底に「S29年頃」との書き込みがある。このこけしでは旧来の伝統こけしと共通する部分も多く、伝統こけしから新型こけしに移って行く移行期のこけしと考えられる。では、このこけしがどのようにして作られたのかを想像してみよう。
< もんぺこけし7寸(義一写し)、8寸2分、初期型8寸 >
こちらに、3本のこけしを並べてみた。右は前回(第12話)紹介したこの時期(S28~29)につくられていた「初期型」のこけし。左は父盛が秋田時代に作っていた「もんぺこけし」を高橋義一が復元したもの。先ず、形を決める際には「もんぺこけし」の形を元にして胴中の括れを滑らかにして胸部を小さくしてバランスを整えた。首の部分は長くして頭と胴とは繋がっているように見えるが、実際には分かれていて鳴子こけしの特徴である回して鳴ることが出来るようになっている。その頭と胴の繋ぎ目には赤と緑で首飾りを描いている。胸部の横菊は、「高勘」の代表的な胴模様の横・正面菊の上部の横菊を持ってきた。そこから下の胴模様はロクロ線の組み合わせで、土湯系の胴模様に近い感じである。
頭頂部の髷はこれまでとほぼ同じだが、鬢は完全な角髪とし赤い紐飾りで結んだ。面描は右こけしと同じと言ってよいであろう。
この福寿の新型こけしは、これまでの伝統こけしの範疇に入るものではないが、新型こけしとして見た場合も中途半端な印象は拭えない。
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