第11話:原点への回帰
土橋慶三氏の熱意によって、盛・福寿の両名が勘治のこけしの写しを作ったことにより、土橋氏の今回の鳴子訪問の一つの目的は達成されたが、最も大事なことは現状の鳴子こけし全体を昔のような個性に溢れ生気に満ちたこけしに戻すことであった。そのため、土橋氏は「高勘」以外にも、高橋武蔵、大沼誓、大沼新兵衛、桜井万之丞、岡崎斉、伊藤松三郎、大沼健三郎、松田初見などの長老を始め、多くの若手工人とも会って、その想いを語った。盛も土橋氏の話を聞き、勘治こけしの写しを作ったことにより目が覚めたのであろう。本来自分が作ってきたこけしを振り返り、本荘から鳴子に戻ってきた当時のこけしを思い出して作った。その想いは福寿も同じで、自分の型として作っていた跳ね鬢のこけしを一先ず横に置いて、「高勘」本来の盛こけしを継承したこけしを作り始めた。
< 盛s27、盛s23 >
盛のこけし2本を並べてみた。右は昭和23年の6寸2分、鳴子に戻って直ぐのこけし、左は昭和27年3月のこけし(7寸)である。非常に良く似ているのが分る。24年から26年に作られていた甘いだけのこけしとは一線を画する本格的な盛こけしの復活である。
< 普通型s27、勘治型s27 >
福寿の昭和27年のこけし2本。左は7寸。盛の作る標準的なこけしで「普通型」と言われるもの。鬢は真っすぐ下におろしており、25年26年頃のような跳ね鬢ではない。胴模様も盛のそれをそのまま写したもので、上の横菊も花芯への巻き込みがなく、単調であっさりしている。右は6寸。特徴的なのは胴の形態で、肩の丸みは大きく、胴の反りは深く、裾部が台状になっている。また、肩部と胴裾の赤ロクロ線は太く華麗で、これは明らかに勘治のこけしを見て写しを作ったことの影響である。髷が無く、鬢も角髪ではなく、二側目でもないが、「こけし・人・風土」の第100図に載っている福寿1尺のこけし(勘治型)も頭部は本こけしと同様なので、27年当時はこのような様式を勘治型と呼んでいたのかも知れない。福寿のこけしの鼻は丸鼻が多いが、この2本では盛雄のような垂れ鼻になっており興味深い。
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