第18話:「宝珠」で総理大臣賞!
本格的に新型こけしの分野に飛び込んで5年が経ち、木地技術の粋を結集した「縄文こけし」から風土に馴染んだ優しい「みちのくの夢」まで幅広い活躍をしている福寿であったが、そんな中で挑戦してみたいテーマがあった。それは顔を立体化することであった。立体化するということになれば、顔の中で一番出っぱっている「鼻」が先ずその対象になる。これまで、髷とかヘアバンドなどにビリカンナの技術を応用してきたが、面描の部分については筆で描くだけであった。鼻の立体化の前兆は「南国の踊り子」にある。そこでは、鼻を白い顔料で厚めに塗っており、見た感じでは分からないが触ってみるとやや膨らんだ感触を受ける。そして、その鼻を後付けで立体化したのが「宝珠」である。宝珠にはその他にもスタイリッシュな形、白無垢に黒と金で描いた宝珠の一点模様、宇宙人を思わせる表情など、これまでの作とは一変した趣向が評価されて、昭和35年の第7回全国こけし人形コンクールにて「内閣総理大臣賞」に輝いたのである。
「宝珠」を2本並べてみた。大きさは6寸。この2本は異なる部分が幾つかあり、製作時期に違いがあると思われる。総理大臣賞受賞作は目に金の眼点が入っているので左のこけしに近いようだ。2本の違いは、胴の太さ、宝珠の形、眼点の有無、鼻の位置である。
「宝珠」は1本だけ見ると斬新なイメージに目を見張るのであるが、これまでの作と並べると多くの共通点のあることが分る。左が「南国の踊り子」、右は「みちのくの夢」。全体の形と白無垢の胴は「みちのくの夢」の延長線上にあることが見て取れる。また、頭頂部のビリカンナ模様、面描(目・鼻・口)は「南国の踊り子」を元にして作られたと推測される。
「宝珠」2本の目の描法の違いを見てみよう。「南国の踊り子」では上下の瞼を描き、その間を塗るような感じで横長の眼点を入れている。これが、左の「宝珠」では、白目の部分を薄墨で塗りつぶし、濃墨で横長の眼点を入れている。右の「宝珠」では、この横長の眼点の上から更に金で一点を入れて、目が輝いているように変化している。
さて、今回のテーマである立体鼻はどうだろうか。「南国の踊り子」(左)と「宝珠」(右)の鼻の様式である。左の「南国の踊り子」では描いただけの鼻なので、横から見ると殆ど分からないが、右の「宝珠」では後から付けた鼻なので、その出っ張り具合がはっきりと分る。当時の福寿としてはここまでが限界だったのであろう。しかし、福寿のこけしはここで終わらず、平成になってからは更に進化するのである。その話は未だ未だ先である。
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