第29話:勘治型の変わりもの・・・
ここまで、福寿の勘治型について、その製作の初めから昭和30年代の後半に入った辺りまでを追ってきた。今夜は、その時期に作られた、ちょっと変わった勘治型を紹介しておこう。勘治型は象徴的なこけしで各部の様式がほぼ決まっており、勘治型と言うだけで誰でもそれをイメージすることができる。福寿の勘治型も細部には時期により違いはあるものの、その大枠は変わっていない。そんな中で、前髪が櫛形では無く、小寸こけしに描かれる振分け形にしたものがある。後年の勘治型では小寸物でも櫛形の前髪を描いているので、この時期だけのものであろう。
こちらが、前髪が櫛形ではなく、振分け形になっている勘治型。左は7寸で昭和36年頃、右は4寸で昭和35年頃の作。この昭和30年代の中頃は未だ完璧な勘治型は完成していない時期なので、このような変わり形も作られたのであろう。左は肩の山のロクロ線の様式や胴裾の台状形態も勘治型にはなっていない。一方、右は小寸でありながら前髪以外は一応勘治型の要件を満たしている。勘治型は「原」が大寸物なので、きっちりした櫛形の前髪が相応しいが、この振分け形では表情が幼く見えるようだ。なお、左こけしは胴底に「昭40.9.29 鳴子 遊佐こけし店」と鉛筆で書かれている。この昭和40年は、それまで下駄商店と一緒に商いをしていた「遊佐こけし店」から現在地に移って「福寿の店」に変わった時期である。このこけしの特徴から製作時期は昭和36年頃と思われるので、売れ残っていたか仕舞われていたものがこの40年に店に出て買われたものと推測されるのである。こけしの胴底には色々な文言が書かれていることがあるが、そこから当時の状況が垣間見られて面白い。
小寸の勘治型を改めて見てみよう。30年代の小寸物は珍しい。6寸以上の大きさの勘治型に比べて、頭がやや大きめに作ってあるようだ。
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