第10夜:福寿こけしを求めて
そこで私も色々と作戦を考えて、5月の連休を狙ってみることにした。勿論賭である。今なら事前に福寿さんに連絡をとるなどの方法があるのであるが、当時の私にはそんなことは思いも寄らない事であった。そして昭和49年の5月4日、いつものように夜行列車で東京を経ち一路鳴子に向かった。その時は鳴子が近づくにつれ興奮で胸の高鳴りを覚えたものである。はやる気持ちを押さえながら福寿の店を覗く。この瞬間が一番緊張する時間でもあった。「あった!」。店の中に福寿さんのこけしを見つけた途端、一気に身体から力が抜けていくようであった。それから徐にこけしに近づき、手にとってじっくりと眺める。正に「至福の時」である。2年ぶり、3回目の訪問でようやく福寿さんの普通型のこけしを入手することができたのである。これに味をしめた私は翌50年の5月連休に再び福寿の店を訪ねると、普
通型の他に勘冶型も置いてあり、私は初めて勘冶型のこけしも手にすることができたのである。さらに翌年の51年にも福寿の店に赴き首尾良く勘冶型のこけしを入手することができた。後になって福寿さんに聞いたところでは、5月の連休には訪問客のために多めにこけしを作って店に並べていたとのことである。私の賭は運良く的中した。この時には、店には並んでいなかったが思い切って「大正型はありませんか」と応対をしていた奥さんの節子さんに聞いてみた。すると「2階にあるかも知れないので」と言って2階から1本の大正型こけしをもってきてくれた。
これで私は待望の福寿さんの3種のこけし(普通型、勘冶型、大正型)を手にする事ができたのである。最初に3種のこけしの注文の手紙を出してから5年が経過していた。この年の6月、東京の小田急デパートで「遊佐福寿と第四回伝統こけし三十人展」が開催されて福寿さんも来られていたと思うが記憶は定かではない。
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