第21夜:2/11のヤフオク(太治郎型)
昭和42年作と思われる弘道作には当初から興味を引かれていたが、太治郎の方はそうでもなかった。大きさが尺3寸という大寸物であり、相当の高値が予想されたからである。そもそも太治郎こけしを所有することなど考えてもいなかったのである。ところがである。「木の花(第参拾号)」の太治郎こけし覚書を読み、「こけしの美」のカラー写真に掲載されている太治郎こけし(米浪蔵)をよくよく見ると、今回出品されてる太治郎作はそれとうり二つなのである。昭和10年頃とされるこのこけしは、太治郎の製作年代的にも中期にあたり晩年のこけしに比べて表情的にも勝っていると感じた。太治郎型はこけし収集の最初から好きだったこけしであり、正一、弘道のこけしは出来るだけ集めてきたが、これに例え1本であっても太治郎が加われば収集に重みが付くのは明白であった。今後、このような保存状態の良い太治郎が出てくる可能性は低く、ここは頑張ってみる価値があると判断したのである。
この日の昼間は法事があり、夕刻帰宅してヤフオクの入札状況を見てみると10万円を超えたところであった。同じ出品者から出ているキンと思われるこけしは、締め切りが数日先にも拘わらず既に17万円を超えていることを考えると、それほど高値にもなっていない。午後8時42分、締切間近から参戦した。この時点で既に競合相手は一人に絞られておりマッチレースでの競り合いとなった。オークションで競り合いになった場合は、相手の心理を想像しながら入札することになる。お互いに相手の最高額を更新することが暫く続き、時間は参戦してから既に1時間を超えていた。ようやく決着が付いたのは午後9時59分、実に当初の締切時間を1時間以上も超える熱戦であった。落札価格は自分なりに想定した金額内に収まっており(それでも私が所有するこけしでは最高額)、先に諦めてくれた相手の方に感謝しなければならない。
そうこうしている内に、弘道の締切も目前に迫っていた。こうなるともう勢いである。22時11分より参戦。こちらは激しい競り合いにはならず、22時29分に無事に落札終了。こうして、太治郎と弘道のこけしを何とか落札して長~い1日は終わった。あとは代金を振り込んで、こけしが届くのを待つばかりである。そう思って最新のオークションの出品作を眺めていると、何と34年の弘道が出ているではないか! そう言えば以前読んだ書物に、一度こけしの王様を手に入れると、それが別のこけしを呼び寄せるのだと言う。締め切り日まで、また落ち着かない日々が続くことになってしまった。
14日、送別会を終えて帰宅すると、太治郎こけしが届いていた。手にとってみると大きさの割りに思ったよりも軽い。しかも音がするのである。そう、頭にガラが入っていたのである。これには正直驚いた。この軽さからすると、胴もある程度くり貫いてあるのかも知れない。そう言えば以前、正一談として「私のこけしは胴もくり貫いてあるので割れないのだ」というようなことを読んだ記憶がある。今まで、正一、弘道のこけしで頭にガラが入っているものは見たことがない。太治郎の他のこけしはどうなのだろうか? と思って前述の「木の花」の太郎治郎覚書を見てみると、久松蔵の尺3寸にガラガラが入っていると記されている。この久松蔵と「美と系譜」の米浪蔵、それに今回入手した太治郎の3本は大きさ、形態、描彩などが殆ど同一ということから同時期に作られたものと考えられる。他の太治郎こけしにガラ入りの記述がないことから、ガラ入りはこの大寸物だけの可能性が強く、そうだとすれば重量を軽減するために(また割れを防ぐために)頭をくり貫き、せっかくなのでガラを入れたと考えるのが自然だろう。子供が手に持って振った時に音がするので喜ぶからという理由とは違うのだろう。
この太治郎こけしは、同一出品者から出ている他の古品こけしと比べて保存状態が頗る良い。それだけ大事に保存されてきたのであろう。戦前のこけしブームの時、太治郎の家には製作依頼の手紙が山のように積まれていたと言う。そんな収集家達が血眼になって求めた1本の太治郎こけしを、今はネットオークションで居ながらにして手にすることが出来るのである。昭和40年代から50年代の第2次こけしブームを経験してきた筆者にとっては、まさに夢のようなことである。今回のガラ入りという新しい発見から、やはりこけしは実際に手で持って鑑賞しなければ本当のことは分からないのだと再認識させられた。この1本の太治郎のこけしはもっと沢山のメッセージを我々に与えてくれるに違いない。それはこれからのお楽しみである。
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