第27夜:護のこけし(ピーク期)
こけしを鑑賞する上で、表情が占める割合は大きい。表情には千差万別あるが、一番多いのはやはり笑顔であろう。こけしの微笑みを見ることで癒されることは多い。微笑みにも色々あるのは、「弘道の微笑み」の項でも述べた通りである。今夜は佐藤護さんを取り上げてみた。護さんのこけしは収集を始めた初期(昭和40年代末)に当時の老工のこけしとして1本入手していたが、特に興味があった訳ではなかった。昭和50年代末から60年代にかけて、護さんの三男である勝洋さんのこけしに魅力を感じて色々集めている中で、護さんのこけしにも関心が出てきたのである。そして護さんの事を文献等で調べ、またこけしも入手することによって、益々興味が深まるとともにその魅力に惹かれていったのである。
さて、護さんのこけしのピーク(戦後)は58才から60才頃とされている。この時期の護こけしは実に瑞々しい微笑みをもったこけしである。直治(小原)、直助など、遠刈田系の巨頭を有する周治郎系列の甘美さを余すところ無く発揮していて見劣りしない。写真は60才の作。弓のように良く伸びた眉と三日月目は黒目勝ちに輝いている。そして、その微笑みはあくまで明るく素直で屈託がない。60才にならんとする工人の筆から生まれた美少女の、その瞳からは悩みなど微塵も感じられない。見るものの心がどうであろうと、元気に励ましてくれるこけしである。そこには汚れを感じさせない清純な乙女が元気に微笑んでいる。
戦後の護こけしの変化は相当に激しい。終戦直後のこけしは当時の世相を反映してか筆に力が無く、色彩も淡く深みが感じられなかった。そこからこのピーク期へ登り詰めて行くのであるが、その変化もまた見ていて楽しい。護さんはこけしの胴底に署名と一緒に年齢も書いているので、経年変化を調べるのには都合が良い。そんな護こけしも直助は別格として英太郎こけしに比べても評価は決して高くない。しかしピーク期の護こけしは英太郎こけしに決して引けを取らないと思う。人気薄ということで、中古市場での価格も高くはなく集め易いこけしでもある。本こけしもヤフオクで安価に落札したものである。次夜は、護こけしの中でも評価が高く、人気もある「直助型」に触れてみたい。
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