第30夜:佐志馬のこけし
今から5年程前、偶然に昭和20年代のこけしを何本か扱うことになり、その中に入っていたのが写真のこけしである。頭は縦長ではなく、むしろ横広で目は顔の下の方にあって瞳は大きい。一般的には戦後の新型こけしに影響を受けた単なる可愛い子ちゃんこけしになっても不思議はない。ところが、このこけしの円らな瞳は忽ち、私を虜にしてしまった。 中央部に筆力の入った大きな眉、それと呼応し両端が繋がった細い線の瞼。そして下瞼からはみ出した大きな瞳。両横鬢は雄大に顎の下まで垂れているが、鼻と口は小さめで僅かな微笑みを湛えている。大きく円らな瞳は幼子の純真な眼のようであるが、じーっと見ていると愛らしいというよりも何か小悪魔的な表情にも見えてくる。その瞳には見るものの心を捕らえて離さない魔力のようなものが漂っている。やや太めの胴は中央部に太い紫の帯を3本締め、上半身は赤中心で胸の部分に紫の細線を重ねて配し、下半身には紫の太い帯を2本入れて胴下部は黒の太いロクロ線でアクセントを付けて締めている。幼子の晴れ着を心憎いばかりに華麗に演出している。
佐志馬こけしを継承して進境著しい近野明裕さんに、このこけしの写しを作って貰った。水準以上のこけしに仕上がっていると思うが、頭の大きさと胴の太さのバランス、顔の描彩ともまだまだ研究の余地は多いように思う。佐志馬のこけしで頭が横広ぎみなのはこの時期のみ。それ以外の戦前も戦後も縦長の頭が殆どである。近野さんには、この頭の形もぜひ引き継いで貰いたいものである。「原」では紫の色が薄くなっているが、近野さんの写しによって、その華麗な胴模様が見事に再現されたのは嬉しいことである。
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