第43夜:分岐点のこけし(3)
この40周年記念こけし製作のために、幾雄さんは1年ほど前から友の会の栄治郎こけしにじっくりと取り組み、木地形態から描彩まで丹念に研究したとのことである。幾雄さんの栄治郎型は仙台屋の栄治郎こけしから出発したのであるが、次第に幾雄さん流にアレンジされて作られて来た。その間、木地形態では襟巻き状の首や胴の帯などが時期に応じて種々変化している。頭部の描彩では頭頂部の赤いカセと丸玉や横鬢の様式、また胴模様は初期の作では「原」に合わせて桜崩しの両脇に小花と蕾を描いていたが、やがてそれが無くなり、代わりに2枚葉が描かれるようになって、これが定型化された。原寸ものでは時折、小花と蕾が描かれることがあったが、それらは幾雄さんの想像によるもので「原」のそれとは隔たったものであった。写真右は平成5年作の栄治郎型。この様式が一般的には作られていた。
写真左が同じく平成5年の友の会栄治郎写し。木地形態から面描、胴模様に至るまで、相当違っているのが分かる。木地形態の大きな違いは頭頂部が扁平である点と胴の帯も角の丸みが少なく平らな点である。頭部の描彩では、頭頂部の赤いカセが複雑になっている。そして眉と目は小振りで湾曲が付き、横鬢に近く描かれている。そのために瞳には潤いがあり、何とも艶めかしい色気を感じる素晴らしい表情になっている。胴の描彩も桜崩しの両脇には「原」に忠実な小花と蕾を描いている。前回の直志さんの胴模様の小花と蕾と比べて見て頂きたい。また帯下の正面菊も右の一般品ではまん丸で様式化しているのに対し、左の写しでは横長の楕円形で写実的に描かれている。
しかしながら、この写しの栄治郎型の作風(特に頭部の形態と表情)は長続きしなかった。1年ほどすると木地形態と表情は以前作っていた一般的な栄治郎型に戻っていくのである。ただ、小花と蕾を配した胴模様のみは引き継がれ、それは次第に8寸ものや6寸、5寸ものにまで描かれるようになる。その点から見れば、分岐点のこけしとして挙げても良いのだろう。
| 固定リンク
「蔵王系」カテゴリの記事
- ★小林清次郎さん、会田栄治さん逝去さる!(2015.03.17)
- 第989夜:新春こけし展(梅木直美)(2015.01.08)
- 第986夜:伊東東雄と栄治郎型こけし(2014.12.30)
- 第977夜:荒井金七の小寸こけし(2014.12.02)
- 第970夜:定番のこけし(秋山一雄)(2014.10.12)
コメント