第56夜:「美と系譜」のこけし(2)
大沼秀雄さんは鳴子系の本流の名工、大沼竹雄さんの次男で昭和5年の生まれ。ただし、竹雄さんが昭和15年に早逝してしまったため、昭和21年より岡崎斉吉さんの弟子となって木地修業をした。昭和33年8月までは岡崎工場の職人として働き、同年秋より独立してこけしの製作を始めた。描彩は母みつをさんの指導により父竹雄のこけしを目指すことになった。「美と系譜」掲載の秀雄こけしは33年作で胴模様は竹雄さんが得意とした車菊。初期作で車菊模様は珍しく私は未だ実物にお目にかかったことがない。写真(2)右のこけしは胴底に「33.11.9」のゴム印が押してある。胴模様は重ね菊で初期のこけしであることは間違いない。控えめにはにかんだような少女の瞳は初々しく、鳴子系本流の面影を漂わせている。保存状態も非常に良く、胴にはうっすらと黄色が塗られている。この初期作の特徴に頭頂部の赤い水引の描法が挙げられる。向かって左の2筆が前方に垂れているのである。これは33年作に見られ、34年になると通常の描法に変わっていく。写真(2)左は母みつをさんの作で55才の署名がある。秀雄さんが描彩の参考にしたのは、このようなこけしだったと思われる。
本こけしで私が注目したものに肩部のロクロ線の様式がある。肩上面から山部にかけて赤いロクロ線で塗られているのである。私がこの様式に初めて気付いたのは昭和52年に見た福寿さんの「盛古型」であった。このことは第11夜で話した。黄胴の上下を赤いロクロ線で締め、更に肩の上面も赤で塗るこの描法に私は古風さを感じて好きなのであるが、実は艶やかな様式でもあるのである。私はこの様式に興味を覚えたので、鳴子の他の家系のこけしについても調べたことがある。それについては別の機会にお話したい。この様式は大沼家の伝統として竹雄-みつを-秀雄と引き継がれてきたが、昭和40年代以降は見られなくなってしまい、秀顕さんのこけしにも最初は描かれていなかった。
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