第97夜:初期作の味わい(7)
もう5年近くも前のことでヤフオクを始めて間もない頃の事と記憶している。出品されたこけし(2本)は土湯系であることは分かったが、こんな目は見たことがなく誰の作かも一見では分からなかった。ただ当時から粂松のこけしに興味を持っており、陳野原和紀さんの粂松型を集めていた私には思い起こすことがあった。それは「こけし辞典」の陳野原さんの項に書かれていた次のような記述である。『43年5月の初作のころのは弘道と佐志馬をつきまぜたような胴や現在の定巳風の胴に紡錘形の目の童女画を描いていた』と。この記述の中の『紡錘形の目』がこれなのではないかと。このこけし、目以外の頭部の描彩や胴模様が粂松型であることは明白である。さらに胴底には「68.5.8」という鉛筆での書き込みがある。昭和43年5月初めの作であり、時期も「こけし辞典」と一致する。大きさは7寸4分と8寸3分。小はらっきょう型の頭で三角胴きみ、大は卵型の頭で直胴で、木地形態に違いは見られるが頭部、顔の描彩も胴のロクロ線の模様もほぼ同一。「原」となった粂松こけしは判然としない。
ところで、この紡錘形の目はどこから来たのであろうか。アフリカの土俗芸術を思わせる素朴な描彩は、しかし生命力に溢れ見るものの心を捕らえて離さない。この2本以外には、この目のこけしに巡り会ったことはない。この後、和紀さんは粂松ばりの目を描くようになるので、ほんの僅かな期間のみ描かれたものなのであろう。そう言えば第92夜で取り上げた鉄則さんの初期幸兵衛型の目も紡錘形であった。
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