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第101夜:初期作の味わい(8)

Matuichi_kosaku_kao 本年6月の東京こけし友の会の抽選頒布で伊藤松一さんの古いこけしを入手したことを以前書いた。9月の鳴子こけし祭りで松一さんが元気に足踏みロクロで実演している写真を拝見し、この古作こけしの写真を同封した手紙をお送りした。程なく、松一さんから手紙の返事と各種資料、それに「八十三才」と署名されたこけしが送られて来た。今夜はそれを紹介したいと思う。

Matuichi_kosaku 松一さんからの手紙によると、「昭和17年から19年まではこけしの製作はしていたが描彩の方はあまりしていなかった」「昭和21年中国から復員して田、畑を開墾しながらの製作で余り本数が出ていない」「昭和32年からプロパンガスの製造、販売の資格をとり昭和40年まで従事」「昭和41年に動力を入れ本格的にこけしの製作に入った」とあり、「写真のこけしは昭和21年から31年の間に製作したものと思う」と記されていた。また「こけし辞典」によれば松一さんのこけしの文献掲載は美術出版社の「こけし」(昭和31年発行)が最初とある。「こけし」掲載のこけしは小寸の楓模様で写真も小さいために細部がよく分からない。それ以外の写真は昭和41年以降のものとなる。従って、本掲載こけしは松一さんの初期の作品と言えることがはっきりした。

それでは松一さんのこけしを見てみよう。先ず木地形態であるが、胴は反りが少なく直線的で裾部がやや広がっている。胴底は切りっぱなしであるが、畳着きの部分は面取りがしてある。「伊藤松一作」との署名があるが、これは後日したものとのこと。頭は円形で小さめである。顔の描彩では、両目の間隔が開いていてゆったりとした表情、穏和で落ち着いて眺められ、見る者の気持ちを落ち着かせる。胴模様は菱菊、上部の横菊はぼってりとした筆致で描かれている。一方、下部の正面菊は筆数も少なく簡素、線香花火を見ているようだ。添え葉や茎も申し訳程度に描かれて、あくまで花の引き立て役に徹している。稚拙と言っても良いのかも知れないが、また数をこなしていないための面白みが見て取れる。後年の完成された華麗な菱菊の出発点かと思うと目が惹きつけられる。

Matuichi_kosaku_y83 大正13年生まれで、鳴子の最長老として今なおロクロに上っている松一さんの古作こけしをこうして紹介できたことは嬉しいことである。83才作のこけしと並んだ写真を掲載する。眉目の描彩に筆の揺らぎを感じるが華麗な胴模様にはいささかの衰えも感じさせない。こけし工人の見本のような松一さんには、いつまでも現役で頑張って貰いたいものである。

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