第134夜:入れ子こけし(1)
平成12年12月、私は制作中の私家本「福寿のこけし」の最終チェックのために鳴子の福寿さんを訪ねた。その時に見せてくれたのがこの5重の入れ子こけしである。このこけしが久松旧蔵の盛こけし(「木の花(第弐拾弐号)」掲載)の復元作であることを知ったのは、後日「ひやね」を訪れてからのことである。福寿さんは私の訪問から約1ヶ月後の平成13年1月24日に急逝されてしまったからである。
この入れ子のこけしの復元は「ひやね」が依頼したものであり、私が訪れた時点では福寿さんはその試作品を作っていたことになる。結局、完成品は「ひやね」には1本も届かなかったと聞く。試作段階で終わったため、この入れ子こけしは数本作られただけと思われる。福寿さんの急逝は全く突然のことであり、12月に伺った私は幸運だったのかも知れない。
胴が太く、入れ子に適していると思われる鳴子系であっても、尺の大きさで5重の入れ子を作るには胴の肉厚を極力薄くする必要があり、高度な木地技術が要求される。実は福寿さんは昭和26年に「組入りこけし」を作ってコンクールで入賞しており、その頃からしっかりとした技術を身に付けていたのである。従って、この盛こけしの復元もそれ程大変という訳ではなかったかも知れない。木地形態はほぼ「原」に忠実に作っているが、描彩は丸写しではない。盛こけしの当時の特徴を捉えて、それを福寿さん流に消化、再構成して作られたものである。単なる「写し」ではないというところに福寿さんの心意気が感じられる。しっかりとした木地技術の上に、戦前の鳴子こけしを福寿さんの解釈によって再現したこけしなのである。そして福寿さんはこの5重の入れ子では飽きたらずに更に上を行くこけしを作っていたのである。その話はまた次回にしよう。
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