第163夜:芳蔵の本人型
土湯系、中の沢亜系の岩本芳蔵さんは明治45年の生まれ、岩本善吉さん次男である。昭和元年、小学校卒業と同時に父善吉について木地修業を始めた。こけしは22歳(昭和8年)の頃より作り始めたが善吉さんは自身が創作した所謂「たこ坊主」を芳蔵さんが作るのを好まなかったため、当初芳蔵さんは自身の本人型こけしを作らざるを得なかった。しかし善吉さんが健在な内は芳蔵さんのこけしはその蔭に隠れてあまり注目を浴びなかったようだ。昭和9年に善吉さんが亡くなった後も芳蔵さんは自身のこけしを作っていたが昭和31年に小野氏の薦めで善吉型を作るようになり、それによって芳蔵さんのこけしは一躍脚光を浴びるようになる。以後、芳蔵さんは善吉型に専念し本人型は作られなくなった。従って、芳蔵さんの本人型は戦前と戦後の30年頃までの製作となる。
本掲載こけしは昭和20年代末頃の作であろうか。肩の割合張った直胴に横広の丸い頭を付けている。頭頂の蛇の目は真ん中が黒で細い緑線、赤い太線、緑の細線、そして一番外側は太い黒線で、そこに短い前髪が付いている。特徴的なのは横髪で、下部を赤いリボンで結んだお下げ髪状の横髪が描かれており、縄文時代の髪の様式を思わせる。また、この横髪と頭部の黒ロクロ線の境目には3つの赤い点状の飾りが付いている。大きな眉と善吉風の円らな瞳、ピンクの頬紅が愛らしい。胴模様は大きな牡丹を縦に3つ配している。戦前の本人型のような土俗的なエネルギーを感じさせるものではないが、善吉こけしとはひと味違う芳蔵の思い描いたこけしと言うことが出来るのであろう。
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