第281夜:「古計志加々美」のこと
こけしに関する文献を読んでいると、古いこけしを参照する時に「古計志加々美」のことが良く出てくる。「古計志加々美」は「こけし鑑」とも書かれ戦前の文献であることは知っていたが、なかなか現物を見る機会がなかった。最近、古いこけしを知りたい(見たい)ということが多くなり、本書もぜひ見たいと思っていた。今年になってから「ひやね」を訪れる機会があったので聞いてみたところ、在庫はなかったが最近は神田の古書店でも時々見かけ、価格も大分下がってきて5万円程度で出ているということであった。そこで試しにネットで調べてみると2,3件見つかった。価格は8万円ほど。「ひやね」の話よりはやや高価であったが、一番良さそうなところに申し込んでみた。直ぐにメールで返事があり、代金を振り込んだところ翌日には現物が届いた。「古計志加々美」については良く知らない方も多いと思われるので、今夜はこれを紹介したい。
届いた本は箱付きであったが、箱自体はかなり弱っていた。しかし中身の本自体は使用感がなく、新品として売られた当時の状態のまま月日が経ったという感じである。月日が経っているので、それなりの色は付いているかなという程度。これならば8万円でも納得と思って中の頁を捲る。
発行は昭和17年、もう70年近くも前のことである。構成は序説17頁、図版解説(原色版)17頁、図版解説(単色版)64頁、図版(原色版)が8頁、続いて同(単色版)が72頁と続いている。各頁には1頁に4本~6本程度のこけしが掲載されている。こけしの総数は原色版が1頁に4本で計32本、単色版は333本である。昭和17年発行だから、当然全てのこけしが古品ということになる。いずれのこけしも保存状態は良く、作られた当時の状態で写真を撮ったようである。図版(写真の頁)は解説の頁と別立てになっており、しかも厚紙で片面刷りのため、写真の鮮明度はかなり良い。改めて、「古計志加々美」の資料的価値の高さを認識した次第である。定価は15円(発行時)で300部の発行。ちなみに昭和17年時点では源吉の尺こけしが1本1円50銭である。従って尺こけし10本分、今尺こけしが1本3千円とすると3万円となるから立派な図録級のものと言える。
著者は「菊楓会同人」、土橋慶三氏を代表として、溝口三郎氏、西田峯吉氏、金森遵氏の4名が名を連ねている。この内、土橋、溝口、西田の3氏はこけし蒐集家として著名であるが、金森氏はこけしというより彫刻の専門家として有名である(金森氏の詳細は『木人子室』を参照)。また、ここに掲載されているこけしが、これら4氏のコレクションのものなのか、それ以外の所有者がいるのかもよく分からない。ただ、掲載こけしのかなりのものが西田コレクションの蔵品として「原郷のこけし群」にも掲載されている。本書の製作目的や特徴は、長文の「序説」に記載されているが、明治以来の欧米文化に対して日本古来の土俗工芸品の美を正しく認識するためのめのであり、従って、必ずしも名品こけしの集大成でないと明言している。こけしは所在地(県別)に纏められており、従って当時秋田に居た鳴子系の高橋盛は秋田県の頁に記載されている。もう1つの大きな特徴は、主要な工人に対しては、その時代変化を示すために数本のこけしを掲載していることである。従って、1頁に1工人の作行の違った作品を掲載している例も数多く見られる。そのように明確な目的をもって製作された図録であるが、戦前の古品を鮮明な写真で見られることの価値は大きいものである。
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