« 第285夜:保存極美のこけし(高橋盛) | トップページ | 第287夜:渡辺求のこけし(?) »

第286夜:日陰のこけし(新山慶美)

Keimi_keiji_kao どこの世界でも日のあたる場所と日陰になる場所がある。こけしの世界でも同じことが言えるのだろう。常に注目されるこけし(工人)とその反対のこけし。そしてそれは必ずしもこけしの優劣ではないことも多い。大きくは系統によるものがあり、同じ系統であってもその中の系列、家系による差異もある。更には個々の工人から、その工人の作る型、そして作った時期にまで及ぶかも知れない。先々週、ヤフオクで新山慶美さんの小寸こけしを入手した。最低価1,000円で誰も入札しなかった。また先週の友の会でも同じく慶美さんの8寸を入手した。1200円。友の会の即売は受付番号の末尾の数字(0から9)によって順番が決まるのだが、今回はその最後。従って、このこけしも残りものという訳である。どうやら慶美さんのこけしは日陰の部類に入るのかも知れない。今夜は、入手した2本のこけしの話をしたい。

そういう私自身、慶美さんのこけしは殆ど持っていない。最初の1本は未だこけし収集を始めて間もない大学4年生の時のもの。入手記録を見ると1973年(昭和48年)5月17日に白布高湯の慶美さんのお店で購入している。学生時代の最終学年を向かえ、友と吾妻連邦の秘湯「姥の湯」を目指して出かけた折、登山開始の白布で買い、それを背負って吾妻連邦に向かったのだった。まだ5月中旬の吾妻連邦は上に行くに従って雪が深くなり、道もはっきりしなくなってきた。途中では雪に足を取られて滑り落ち、あやうく谷底に落ちそうにもなった。日も段々影ってきて、道もあやしくなり、結局引き返すことになった。とは言え、登山口まで下りる時間的余裕もなく、途中の非難小屋で一泊することになった。夜間の寒さは尋常ではなく、思わずバッグのこけしを燃料にして暖を取りたい誘惑にも駆られた。それでも何とか朝を迎え、慶美さんのこけしも無事に家まで持ち帰ったのである。そのこけしも今は手元にはない。

Keimi_keiji_hikaku 弥治郎系の新山慶美さんは大正14年の生まれ。佐藤(新山)慶治の長男である。昭和15年より慶治について木地修行を始めた。こけしは戦後本格的に作り始めたため戦前作は確認されていない。戦後のこけしでは「こけし」に載ったのが最初のようで、「こけし辞典」によれば、当初は慶治の晩年作を忠実に写した細筆のこけしを作っていたという。昭和37年頃より幸太型と慶治古型に挑戦し秀作を作ったとある。この時期の幸太型は第73夜で紹介している。写真(2)の右(5寸)は胴底にロクロの四つ爪の跡があり、眉の描線は細く、目も下目で新型の影響も感じられる。戦後間もない頃の作であろうか。左(8寸)は慶治の古型。眉目の描線にも勢いがあり、横鬢も2筆で描いている。やや胴が太くなっており、30年代の末から40年代の初め頃の作と思われる。この頃までは古風な面影を残した力作である。この後、他の工人と同様、慶美さんのこけしも近代化していき、春二亡き後は春二型にも挑戦している。

|

« 第285夜:保存極美のこけし(高橋盛) | トップページ | 第287夜:渡辺求のこけし(?) »

弥治郎系」カテゴリの記事

コメント

ずっと以前に書かれた内容のようですが、お目にとまりますでしょうか。
亡くなった父の遺品の中に、三体のこけしがあり、その一体に新山慶美の文字がありました。
かなり日焼けしてしまっていますが、ずっと持っていたということは、何か思い出があるのではないかと思います。
もしよろしければ、もらっていただけませんか。
他の二体は、達筆の署名で、私には読み切れません。「秋保」の地名が一体にはあります。
写真を送ったほうが良ければ、送らせていただきます。
ご返信いただければ幸いです。

投稿: Nolico | 2011年10月 7日 (金) 15時04分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/188678/45143313

この記事へのトラックバック一覧です: 第286夜:日陰のこけし(新山慶美):

» 朝日旅行の秘湯 [朝日旅行で秘湯へ行く]
朝日旅行の秘湯で有名な日本秘湯を守る会とは、朝日新聞社系列の朝日旅行が主催する温泉旅館による組織です。朝日旅行会は1975年4月、岩本一二三氏によって設立されました。加盟申請した旅館が秘湯としての基準を満たしたもののみ登録できます。秘湯と言われるだけあって、数時間の登山を必要とする場所にある一軒宿や、自家発電のみだったり固定電話もない施設なども珍しくありません。会員旅館が少ないことから帰りに別の会員旅館を勧めてくれたりもし�... [続きを読む]

受信: 2009年5月30日 (土) 10時39分

« 第285夜:保存極美のこけし(高橋盛) | トップページ | 第287夜:渡辺求のこけし(?) »