第293夜:「鑑賞」のこけし(佐藤吉之助)
「こけし手帖(第21号)」に鹿間時夫氏が『古作追求の旅』という一文を載せており、鹿間氏が小原直治かと推測していたこけしを遠刈田の古老に見せて、意見を聞いたことが記されている。その結果をもって問題のこけしが小原直治のものにほぼ間違いないと結論されている。その文の後記として『吉之助に頼んで、直治のうつしを作ってもらった。もちろん直治そのものにはならないが、独特の情味のあるクラシックなこけしができた。』と結んであり、そのこけしの写真も掲載されている。
そして氏の著書「こけし鑑賞」の『佐藤吉弥と佐藤吉之助』の項(108頁)には吉之助の「手帖」と同じこけしを掲載し、次のように説明している。『右の吉之助6寸6分(20.0cm)は昭和33年5月遠刈田へ直治を追求に行った時、持参した直治を忠実に摸してもらったもの、なかなかの快作である。小原直治は周右衛門系で甘美派の巨頭であるから、この模作は適切でないかも知れない。当時誰が適当かと随分選考したが、遂に適任者がなく、吉之助に依頼した。』と。
この2文献の記述から、吉之助が鹿間氏の依頼により直治のこけしの摸作(写し)を作ったのは昭和33年の5月であったことが分かるのである。「鑑賞」に載った直治写しと本稿の作を比べると若干印象が違うように感じる。本稿作は向って右の眉目尻が吊り上り気味に描かれているからであろう。吉之助はこの時に数本の写しを作ったものと推測され、突然の依頼でその出来にも差があったのは想像に難くない。鹿間氏はその中から、最も直治に雰囲気の近いものを「鑑賞」に掲載したのであろう。その時作られた写しの1本として、本稿のこけしも貴重なものと思っているのである。
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