第343夜:重之助の初期こけし
ヤフオクでの入札は写真による入札のため判断が難しい。その写真が不鮮明であったり、暗かったりすると尚更である。どうしても気になるこけしは、その画像を一旦パソコンに取り込んで拡大したり、明るくしたりして細部を検証することになる。元の写真の解像度によって限度はあるのだが。もう1つのポイントに文献で紹介されているもの(もちろん現品ではなく同種のもので良い)といことも考慮している。紹介されているものは、そのこけしに関しての情報が得られるからである。
さて、今回の重之助はその表情から初期のものらしいことは推測されたが、何しろ写真が暗い。ただ、胴底に「三十五・八・一四」の記載があり、検討の助けとなった。例により「木の花」を参照することになる。第5号には初期重之助こけしに関して中屋氏の詳細な解説が載っている。「初期重之助」と言われるのは昭和36年から40年頃に作られた重之助のこけしで評価が高く、現在では高値で取引されている。その「木の花」には初期重之助の出発点として昭和35年8月作の8寸が載っている。今回の出品作は正にそれと同時期の作ということが分かるのである。これにより、私の入札への力の入れ方が増したのは言うまでもない。
ところで、実際に手にした重之助は思った以上に保存状態が悪い。どうしたらここまで色が消えるのだろうと思えるくらいで、緑はその痕跡すら残っていない。胴上中下に引かれた細い紫のロクロ線は胴背面でかろうじてその存在を確認できるのみ。色彩の鑑賞は期待できない。木地形態では、本作は頭が「木の花」より縦長になっている。作り始めで未だ木地が安定していないためかも知れない。それでも流石に表情は最初期の重之助である。両端が微かに離れた細い二重瞼に小さな眼点が光っている。向って右目が下がってアンバランスな瞳は何を見ているのであろうか。両目の間隔が開いているので、「木の花」の写真では①(35年)より③(36年)に近い。この政五郎を思わせる古雅な表情は初期重之助でも35年から36年迄であろう。保存状態が悪く色が飛び古色が付いていることもあるが、昭和35年の作でありながらあたかも戦前のこけしを思わせる初期重之助こけしはやはり凄いの一言に尽きるのだろう。
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