第353夜:たつみ前夜の巳之助こけし
文献などを見ていて、「欲しいなぁ」と思うこけしがある。本稿のこけしもその1本である。発端は「木の花(第壱九号)」。その中の『戦後の佳作』では佐藤巳之助が取り上げられていた。1枚目の写真は顔のアップ、2枚目の写真は全身像。角張った平頭をどっしりとした胴が受け止め、上目遣いの瞳が微かに微笑んでいる。「木の花」の解説を引用しよう。『40年10月12日。巳之助より送付された尺1寸5分。前述中屋同人宅で拝見したのと同型である。頭部がやや偏平で不満な点もあるが、伸びやかな温和な表情が素晴らしい。周助の大正型を意識したのだろうが、全く異質の巳之助の代表作と考えてよかろう。胴中央の帯が全体を引締めている。』と。本稿のこけしは大きさが8寸。頭部は「木の花」掲載品ほどは極端な角型ではない。胴底に鉛筆で「昭40.8.27」の記入がある。このこけしの「原」は「こけしの美」掲載の(41)米浪蔵8寸と思われる。従って本稿の作が「原」に忠実なこけしと言うことになる。周助の「原」は目・鼻・口が中央に寄ってちまちまとした表情になっているが、巳之助のこの作は「木の花」で述べられているように明るく伸びやかな表情になっている。「たつみ」での巳之助こけしの頒布は昭和40年10月から始まるのであるが、どういう訳かこの型は当初の頒布に入っていない。「たつみ」の森さんの求めるものとは違っていたのであろうか。結局、試作品の段階で終わってしまったのかも知れない。そのためにあまり目にすることが少ないのであろう。なお、落札後送られてきた本稿のこけしは、頭の下部から胴裏面全体にかけてシミが出ていた。場所が裏だったことと黄胴であったために、また顔には及んでいないため鑑賞上は大きな差し障りはない。事前に知っていれば入札価格にも影響はあったであろう。写真だけで判断しなければならないヤフオクの危険性でもある。それがあってもなお魅了して止まない、この巳之助こけしは凄いの一言である。
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