第407夜:田中敦夫のこけし(初期作)
私がこけしを集め始めた昭和40年代後半以降に見られる敦夫のこけしと比べて、いかにも古そうなこけしである。しかも木地形態から、栄治郎型のこけしであることが分かる。これまで集めた敦夫の栄治郎型には今一つ納得出来ず、珍しいというだけで飛びついてしまったのである。送られてきたこけしは大きさ5寸、思ったより小さなこけしである。胴底の署名がぎこちない。「こけしガイド(初版:昭和33年11月10日発行)」の田中敦夫の項には、敦夫の33年作と源吉のこけしが参考に並べて載っており、『木地挽きの修業は、既に、3年もやっているが、伝統こけしは今年が始めてである。描彩という点で、まだ稚拙なところもあるが、前途は極めて有望な若手工人の一人である。』と解説されている。その掲載こけしは如何にも作り始めといった感じである。本稿のこけしは、それより遙かに洗練されているが、掲載された源吉のこけしに顔の描彩が良く似ている。敦夫のこけしが師匠源吉を真似ているのは当然であるが、その製作の初期から既に栄治郎型も作っていたのである。帯が細く肩の張った精悍な木地形態、内に大きく曲がった横鬢など源吉譲りである。ただ、頭頂部は髪を円状に丸めたものではなく一本に纏めて後ろに垂らしている。昭和34、5年の作ではないだろうか。写真の左は昭和52年作の栄治郎型。帯が太くなり、栄治郎の原に近い形態になっているが、表情は敦夫そのものであり特徴はない。昨夜のこけしもそうであったが、特に表情という面では30年代の後半に充実したものが多いようだ。
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