第452夜:善吉(中)
大きさは5寸2分。こちらも昭和7年の木形子洞頒布品である。この5寸前後の善吉は木形子洞頒布でかなり作られたようで、「木の花」にも4本が掲載されているが、⑩と⑬が本稿の作と同型である。胴はロクロ線が主体で上部には赤と緑の太い線が入り、中段は赤と緑の千段巻き、下部は紫のロクロ線の間に四つ花を描いている。表情は眼点が大きく、情味があり、昨夜の小寸と比べると成長した乙女を感じさせる。写真(2)に昨夜の小寸善吉と並べて見た。それぞれ、大きさに見合った木地形態、描彩を施しており、両者が引き立て合って絶妙のペアとなっている。この2本を見ていて、ある話を思い出した。東京こけし友の会の元会長である武田利一氏の話であり、こけし手帖250号に『親蛸子蛸』と題して掲載されている。内容を簡単に紹介すると、武田氏が所蔵する善吉と芳蔵のこけしを所望する青年が現れ、あの手この手で武田氏を説得した結果、芳蔵のこけしは武田氏が愛用するパイプと交換してしまったという話。武田氏は後日それを
『パイプは欲しければ何時でも買うことは出来たのに、何故こけしと交換などしてしまったのだろう』と大いに悔やんだということである。幸いにして、その芳蔵こけしは後日、武田氏が買い戻して安心したとのこと。その時の芳蔵こけしは大と小(5寸2分と3寸1分)の2本であったことからタイトルの『親蛸子蛸』になったのだろう。さて、手帖に掲載された写真から、その2本のこけしが木形子洞頒布こけしの復元作であったことが分かるのである。芳蔵の復元こけしですら、このような状況だったのである。今、私の手元にある2本は、芳蔵作ではなく、その元になったであろう善吉作なのである。この2本を出品してくれた古物商には感謝しなければならないであろう。確かに安い買い物ではなかったが、昭和初期のこのようなこけしがインターネットのオークションで誰でも簡単に買えるようになったのは喜ばしいことである。
』
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