第546夜:大野栄治のこけし(晩年作)
友の会の例会会場で見た第一印象は大野栄治のこけしにしては胴に比べて頭がちょっと大きいかなあという感じ。もっとも弥治郎系には大頭のこけしも沢山あり、これはこれで量感に溢れた良いこけしだと思った。頭と胴の嵌め込みがやや緩く、頭は簡単に回りややがたつきがある、頭の中にはガラが入っており振ると音がする。胴底は丸く刳り抜いてあり、そこに「昭和41年11月 北海道川湯 大野栄治」と書かれている。「木の花(第弐拾壱号)」の『戦後の佳作』によると、戦後の大野栄治は『26年から41年頃まで断続的に、少量ずつ製作していたが、42年以降は、健康不良と工場休止で全く廃業の状態である。』とある。胴底の記載通りとすれば、廃業寸前のこけしということになる。
写真(2)左が本稿のこけし。大きさは尺。やや古色は付いているが退色も殆ど無く保存状態はとても良い。胴中央上部に括れを入れた形。胴下部の梅花は3輪と少なめである。昭和30年代も後半になると、表情にもやや緊張感が薄れるのであるが、本作では小さめな瞳が凛とした表情を醸し出している。木地にはやや甘さが見られるが、表情の集中度は強く、とても晩年作と思えない。中央は佐藤誠孝さんの8寸栄治型(平成4年作)、右は裕介さんの尺栄治型(平成23年1月作)。いずれも、栄治の30年代のこけしを写したものと思われる。
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コメント
「本人にしか描けない『顔』がある…誠考氏も裕介氏も、色々な意味で「巧いなあ!」と感じさせてくれるこけしを作りますね。…こうして勢揃いさせてみると、各々「持っているもの」(←性格とか生業への考え方とか色々)がとてもはっきり出てきますね。蒐集者は、「原」とどれだけ似ているかを細かくつつくとか、鉋さばきや絵付けの巧拙を見比べるのではなく、「自分はどんなスタンスで、どの子の個性を買いたいのか」を自身に問いながらこけしを買ってゆくべきなのでしょうね。
投稿: こけりん | 2011年5月 4日 (水) 09時19分
こけりんさんの仰る通りですね。「原」はあくまで「原」であって、工人は物まね屋ではないのだから、型は同じであってもそこに自分の感性なり個性を出して貰いたいものです。そうして出来上がったものを評価して集めていくのが収集家の本当の楽しみなんでしょうね。
投稿: 国恵志堂 | 2011年5月 5日 (木) 09時55分