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第625夜:吉太郎か(?)

Kititaro_1sun_naname 先日、ヤフオクで山形系の豆こけしを入手した。大きさは1寸、頭が尖った何とも愛らしいこけしである。ただ、このこけしには愛らしさ以上に、その凛々しい表情に惹かれるものがあった。で、当然、誰の作で、いつ頃作られたものだろうかと考えることになる。豆ではあるが保存状態は良く、胴の緑の茎葉も鮮明に残っている。その胴模様から吉太郎系のこけしであることは分かる。吉太郎と吉太郎型を作った戦前・戦後の工人の作を見渡しても、これと同じようなものは見当たらない。ただ、同じ出品者が戦前の小寸こけしを出品していることから、戦前のものという可能性もある。口絵写真はその豆こけしである。

収集家の欲目で、このこけしは吉太郎ではないかと思い始めた。そこで、戦前の豆こけしが載っている「愛玩鼓楽」を見て、吉太郎作となっている3本の小寸こけしの写真をコピーに撮って並べて見たのが、写真(2)である。

Kititaro_1sun_moyou_hikaku

右3本が吉太郎で、右より、3寸2分(昭和初期)、1寸1分(昭和15年頃)、2寸(昭和15年頃)。左端の1本が本稿のこけしで1寸である。この3本に限った範囲での考察になるが、頭頂部はいずれも平らであり、本稿のこけしのような尖ったものはない。これは、他の工人の作を見渡しても類例が無く、特異な形態と言える。頭と胴の太さはほぼ同じで、3寸2分の吉太郎も同様と言って良いであろう。次に胴模様、本稿のこけしは細い筆で緻密に描いているが筆の勢いがあり、吉太郎の胴模様と言えなくもない。

Kititaro_1sun_kao_hikaku

さて、最後の顔の表情である。昭和15年頃の吉太郎とは明らかに異なるので、3寸2分のこけしの頭部と拡大して並べて見たのが写真(3)である。本稿のこけしでは、右目は眼点が確認出来ないが、左目は上下の瞼の間に眼点を入れたようにも見える。1寸と3寸という大きさの違いはあるにせよ、やや角度が付き眉尻の上がった眉、同じく目尻の上がった二重瞼、両目の間隔が開き気味なところなど、かなりの類似性が見てとれる。こんなところから、本稿のこけしは昭和10年代前半の吉太郎こけしなのではないかと思う。例え、戦後の某工人の吉太郎型であったとしても、素晴らしい出来の豆こけしだと思うのである。

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コメント

これまた、おもしろい可愛らしい小寸。
たとえ誰の作であっても、味わいのある小寸は
側に置いて愛でたいものです。
小寸に偏りがちな最近の自分の買い方もあり
この記事特に微笑みを誘うものでした。
また貴重なこけしを見せて頂き、暖かく過ごせ
そうです、ありがとうございます。

投稿: kuma | 2011年12月 2日 (金) 07時45分

kuma様
コメントありがとうございます。
指の第一関節くらいの大きさなのですが、存在感のある豆こけしです。頭が尖っていて、ちょっと生意気そうな顔にも見えますが、それはそれで可愛いものです。625夜で大きいこけしと並べますので、その小ささを見てやって下さい。

投稿: 国恵志堂 | 2011年12月 2日 (金) 19時17分

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