第626夜:吉太郎か(?)2
写真(2)中央が本稿の吉太郎(尺6分)である。その左の豆こけし(1寸)は昨夜紹介したもの。大きさを比べるために一緒に載せた。中央の左(8寸7分)と右(7寸3分)の2本も吉太郎。右端(6寸5分)は坂部政治、左端(6寸)は日下源三郎。いずれも信濃町時代(昭和14~16年頃)に作られたものと推察される。この信濃町時代には、吉太郎は木地は挽かなかったというから、木地を挽いた弟子により木地形態は異なる。胴の花模様も左の2本は花冠のある典型的な吉太郎の模様であるが、右2本は花冠がない。面描については、中央とその右の吉太郎は良く似ているが、左の吉太郎はやや異なる。但し、目の強さは3本に共通しており、左端や右端とは明らかに異なる。この5本については、鬢飾りの描法にも違いが見られる。
写真(3)は上記5本のこけしの頭部を横から撮したもの。吉太郎の3本(中央)の鬢飾りは全体に寝ていて横に長い。一方、政治(右端)の鬢飾りは鶏冠のように立っているし、源三郎(左端)は一番下の鬢飾りのみ長く、他は点状である。(最も、吉太郎でも時代が遡ると政治のように立っているので注意が必要である。) もう1点、本稿の吉太郎は大寸のためか、後頭部に写真(4)のようなツン毛が描かれている。
以上のように、本稿のこけしの面描は吉太郎で間違いないと思われるが、問題なのは胴模様である。まるで満開の菊を一面に散らしたような花模様は、山形系はおろか他の系統でも見たことがない。各花の花弁は1つずつ楷書で丁寧に描かれており、達筆な吉太郎とは到底思えない。花は6輪あるが、単純に並べたのではなく、上から3輪目からの3輪は重ね合わせて描かれている。また、一番下の1輪は大きくどっしりと描かれ、一番上の1輪は下の花からやや間を置いて描かれ、その横には横菊を描いてアクセントを付けている。とても、一朝一夕に作られた模様ではないように思えるのである。他に類例を知らないため、誰が描いたのか見当がつかない。ところで、信濃町時代の吉太郎こけしの描彩者としては、黒田ウメノ、堀実、坂部政治の3人が知られているが、政治は写真(2)右端のような描彩であり、ウメノもそれに近い。堀実は写真掲載が少ないが、「愛玩鼓楽」605番を見ると開いた花を散らして描き、各花の間を茎葉で繋いでおり、様式は似て無くもない。但し花の種類は違うようだ。果たして、誰が描いた模様なのか、今後の研究課題である。
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