第643夜:初詣と長治郎の庸吉型
庸吉型のこけしについては、第279夜で岸正規作を、また第607夜で石原日出男作を紹介した。今夜は、友人から見せて貰った小島長治郎の庸吉型を紹介しながら、この3者のこけしを比較して見たい。なお、庸吉のこけしについては「こけし手帖56号」に詳しく紹介されており、279夜でもその概要を記載している。そこには3種の庸吉こけしが写真で掲載されており、その1番目の白胴の庸吉こけし(7寸3分)が、今回比較する3者の庸吉型の「原」と思われる。この「原」こけしは『原郷のこけし群(第一集)』の<75>に再録されている。
写真(2)は左から、石原日出男(5寸8分)、小島長治郎(6寸)、岸正規(6寸6分)のこけしである。いずれも大きさは「原」通りではない。また、「原」では胴下部に鉋溝が1本入っており、これは岸作には入っている。描彩面では、長治郎が「原」に一番忠実であり、日出男もかなり近いが、正規は自分流にある程度消化して描いている。これは正規は各種の庸吉型を集中的に作ったため、その影響が現れているのかも知れない。その点が如実に表れているのは、左目の眼点の入れ方であろう。「原」は右眼点は上瞼から下に点状に入れているが、左眼点は上瞼の下に横に引くように入れている。日出男の眼点の入れ方がその通りである。長治郎は両眼点とも横に引く様式、正規は両眼点とも下に点状に入れている。
さて、ここで、小島長治郎に触れておきたい。長治郎については、『伝統こけしハンドブック』(昭和56年7月発行)に紹介されている。それによると、大正15年9月9日、刈田郡七ヶ宿町の生まれで鈴木庸吉の弟子。昭和16年滑津の五十嵐木工所に入社したとき、先輩職人に鳴子の鈴木庸吉がいた。彼に木地を習ったが20年年季があけ、25年独立、その後庸吉型のこけしを発表し特異の存在となっている。とある。なお、長治郎の年季が明けた20年に庸吉は亡くなっている。このハンドブックに掲載された写真のこけしは、ロクロ線の入った庸吉型と思われるがかなり様式化しているのが分かる。また、「東北のこけし」には本稿の型と同型の庸吉型(7寸、昭和54年)が掲載されている。写真(3)右が、その「東北のこけし」掲載のこけしで、左が本稿のこけし。その違いの大きさに驚かされる。本稿のこけしは製作時期は分からないが、ごく初期のもの、あるいは特別に庸吉を意識して作ったものと思われる。これまで小島長治郎には殆ど関心がなかったが、このこけしは庸吉の雰囲気を良く現しており秀作と言える。改めて小島長治郎を見直した次第である。
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コメント
お正月に遠刈田のみやぎ蔵王こけし館に寄ったら、小島さんのこけし売ってましたよ!
投稿: hi | 2012年1月 7日 (土) 00時36分
hi様
お知らせ、ありがとうございます。
小島さんの最近の動向を知りませんでしたが、
そのこけしが最近作だとしたら、元気にこけしを作っているということで、嬉しいことですね。
投稿: 国恵志堂 | 2012年1月 7日 (土) 11時42分