第685夜:佐藤吉雄のこけし(2)
写真(2)の左は切っ掛けとなった8寸の戦前作で、右は6寸の戦後作である。真ん中が本項のこけしで大きさは6寸である。小寸物のためか、目は一側目で鼻も丸鼻になっている。前髪は大きいが左とは違い振り分けになっているのが分かる。横鬢は外側に離れて顔の面積が広くなり、一重の上瞼が長く伸びて眼点も大きい。鼻は湾曲が少なく、その直ぐ下に大きな赤点の口が付いている。顔は縦長だと大人びて、横長だと幼い表情になる。本項のこけしは横鬢が離れたためと目が一側目のせいもあってか童女の表情となっている。2本並べて見ると、左は妙齢の美人のお姉さんで、真ん中はその年少の妹という感じで上手く釣り合う。
写真(3)に3本の頭頂部の描彩を示す。中央の本項のこけしでは大きな前髪の後ろに「乙」の字が描かれており、右の戦後のこけしへの推移が見てとれる。
右の戦後のこけしでは描彩が繊細になっており、左2本との雰囲気の差は大きい。左が昭和14、5年で、中央は昭和16,7年頃の作であろうか。おおらかで濃厚な描彩が魅力である。
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コメント
やはり8寸の戦前作に目が行ってしまいますが、古い秋保こけしの甘美さや量感には遠刈田のこけしとまた違う魅力を感じています。
乙の字の変遷もとても興味深いです。
はっきりと乙の字を描くようになったのは、そんなに古い時代の話ではない、ということでしょうか?
投稿: suntronix_fuga | 2012年3月20日 (火) 03時16分
左から花魁・禿・新造という印象を持ちました。同じ秋保でも、庄七は「何処か透明な」雰囲気、武治(戦前の自挽自描のもの)は「アハーッ、とつん抜けた」雰囲気を持っていますね。吉雄は又ひと味違って「満開の花桃」的なお色気を感じます。
投稿: こけりん | 2012年3月20日 (火) 11時16分
suntronix_fuga様
秋保こけしは菅原庄七によって完成されたと言われていますね。佐藤吉雄のこけしも庄七を引き継いでいるので、「乙」字も庄七からの伝承なのでしょう。「木の花(20号)」によれば庄七の大正期の作に「乙」字があるとのことなので、それなりに古いのだと思います。ただ庄七のこけしでも「乙」字ではなく、本項の吉雄のようなものがあったのかも知れません。これからは機会があったら庄七こけしの頭頂部を良く見る必要がありますね。
投稿: 国恵志堂 | 2012年3月20日 (火) 19時55分
こけりん様
なるほど!
これはまた見事に例えられましたね。
秋保こけしは形式的には定まった形、描彩になっていますが、庄七、武治、吉雄とそれぞれが異なった趣をもっており、この3者が健在で活躍した戦前の秋保温泉は、どんなに華やかだったのだろうと偲ばれますね。
投稿: 国恵志堂 | 2012年3月20日 (火) 21時22分