第708夜:安太郎のこけし(戦前)
日本で今日一番の話題は、やはり金環日食であろう。一生に一度出会えるかどうかの天体ショーで日本の主要都市が含まれるベルト地帯が対象範囲に含まれる確率は非常に低いはず。しかしながら私の住んでいる横浜は曇り空で雨模様、殆ど絶望的な状況でその時間を迎えようとしていた。TVの実況では綺麗な日食が進んでいる所が映し出されていた。そして、いよいよ金環日食が始まる頃、曇天の中からリング状になりかけた黒い太陽が奇跡的に顔を覗かせた。大方の天気予報に反して、関東の多くの場所で、この一瞬の金環日食が見られたようだ。それは、大震災からの復興に努めている日本と日本人に対する「天からのご褒美」だったのかも知れない。そんな想いに浸りながら、今夜の鈴木安太郎のこけしを眺めてみた。口絵写真は戦前安太郎の表情。
古いこけし手帖(191号:昭和42年2月号)を何気なく眺めていたら、「鈴木安太郎を偲ぶ」という記事を見つけた。安太郎のこけしについては、第576夜で戦前作を、また第697夜で戦後の74歳作を紹介した。戦前作と戦後作との作行きの違いは大きく、その変貌には驚いたものである。そんな安太郎の戦前作小寸を先日入手したので、大寸物と並べて再度紹介したいと思う。
写真(2)は大小(大:尺4分、小:3寸2分)2本のこけしを正面と右側面から写したものである。共に昭和14年頃の作で、「愛玩鼓楽」に同種のこけしが載っている。戦前の典型的な安太郎こけしで、代表作と言ってよいだろう。角張った大きな頭、裾窄まりの直胴で肩には段があり、そこから胴上部と胴下部に赤と緑の細いロクロ線を細かく引いている。胴には5弁の花をぼってりと大きく描き、3筆の簡単な葉を添え、胴右下部には緑の柵を描いている。頭部は三角形の前髪に、後に1本黒髪を流し、前髪との根元を赤いリボン状の飾りで結んでいる。横鬢は頭頂部から頬下まで雄大に描かれ、ほぼ水平に長く描かれた眉・目と垂直に長く描かれた割れ鼻とが絶妙に調和している。
写真(3)に小寸こけしを再掲してみた。大寸物との違いを見てみよう。先ずは、頭と胴は作り付け(大寸は差し込み)となっており、頭部は横広の平頭気味で胴の径よりも小さい。胴上下のロクロ線は、大寸物では緑1本、赤2本を重ねたものであるが、小寸では緑、赤とも1本ずつである。胴模様は花の数を3つ(大は5つ)に減らしたが、柵は描かれている。面描も大寸とほぼ同じであるが、頭頂部の赤いリボン飾りは大寸では頭頂部を巡るように長い線が左右に1本ずつ引かれているが、小寸では煩雑になるためか省略されている。安太郎の特長を良く表した、実に愛らしい1本である。
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