第732夜:酒井正進のこけし(2)
写真(2)に酒井正進の戦前のこけしを示す。左が本項のこけし(8寸7分)で右は第274夜で紹介した5寸5分である。右のこけしは「愛玩鼓楽」のNo107に同寸で殆ど同じこけしが載っており、昭和10年頃の作となっている。戦前の中の沢のこけし(芳蔵、正進、本田信夫)の描彩に関しては、福島県立工芸試験場の安藤良弘技師の影響が大きいとされており、正進の桔梗模様も同氏が昭和8,9年にデザインしたもののようだ。その「愛玩鼓楽」には各年代の正進のこけしが6本も掲載されており、大いに参考になる。但し、これらの正進のこけしの目は、上下の瞼がいずれも上に凸のものが多く、本稿のような目は見当たらない。
写真(3)に上記2本のこけしの頭部を並べて示す。左の本稿のこけしは、胴底に「昭和十三」という書込と沼尻温泉の印が押してあり、その木地形態から、同時期の芳蔵木地に描彩したものと思われる。但し、横鬢が短いこと、鼻が垂れ鼻であること、目の描法など、正進のこけしとしては異色の感じがするのは、類例をあまり見ないからなのであろうか。正進は上手い工人だったと言われているが、その作るこけしも多様だったことが伺われるこけしではある。
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コメント
この工人のこけしは初めて見たのですが、表情がとても魅力的ですね!横からの表情もなんとも言えず惹き付けられるものがあって、何度も見てしまいました。
投稿: yukaeru | 2012年6月28日 (木) 22時31分
yukaeru様
この正進のこけしは何とも言えない魅力がありますね。それが中の沢という土地性なのか、戦前という時代性なのか分かりませんが、戦前の津軽系にも通じるような土俗性とエネルギーを感じます。こういうこけしに出会うと、ますますはまり込んでしまいます。
投稿: 国恵志堂 | 2012年6月28日 (木) 23時56分