第742夜:佐藤武雄のこけし
2009年の2月に、30本程の古品を入手したことは第252夜に書いた。その古品こけしの中に秋保こけしとは分かるものの作者が誰だか分からないこけしがあった。そして、分からないままに日が経っていた。先月末、ヤフオクに、この秋保の古作こけしと表情が良く似たこけしが出品された。先のこけしの素性を探るためにもと頑張って入手した。胴底には「佐藤武雄」と赤字で書かれている。もちろん、武雄の自筆でないだろう。このこけしを入手して直ぐ、秋保を訪問する機会があり、武雄長男の円夫さんに見て頂いた。円夫さんは暫く眺めていたが、武雄であるとの確信は得られなかったが筆遣いは武雄に似ているとの見解であった。口絵写真は武雄古作の表情である。
佐藤武雄は大正3年、秋保の生まれ。佐藤三蔵の長男である。小学校卒業後に父三蔵について木地修業。昭和9年まで木地を挽いた。以後、転業していたが昭和21年より復活したとある。戦前作は、就業期間が短かったため残っていないようだ。
写真(2)は、右端は「31.10.19」の底書きのある武雄こけし。よく見かける武雄のこけしとしては初期のものである。右から2本目が今回入手した「佐藤武雄」と底書きのあるこけし。左から2本目は古品の中に入っていたこけし、そして左端は佐藤吉雄のこけし。小寸物の面描の特徴(一側目で丸鼻)を較べるために並べた。中央の2本の面描は殆ど同一と言って良く、右から2本目が武雄作であるなら、左から2本目も武雄作ということになる。
写真(3)は写真(2)の右3本の頭頂部を較べてみたものである。左端は良く見えないが真ん中と同じである。頭頂部の真ん中に赤点があり、それを囲むように緑の「乙」字があり、そこから赤い手絡が放射状に描かれている。右端では、赤点は前髪の後に移り放射状の手絡は細かく本数も多くなっている。胴の形態では中央は肩が張っている。製作年代は中央が古く、昭和20年代であろう。さて、問題は左のこけしである。左と中央のこけしを較べると、胴の長さはほぼ同じであるが、左は胴がやや太く、頭は格段に大きい。秋保の古いこけしには頭が大きいものが多く、このこけしも堂々たる風格を備えている。一緒に入手したこけしが昭和10年代の後半のものであったことから、このこけしもそれに近い頃と思われ、武雄の戦後作としても復活直後のものであろう。円夫さんも言っていたが、一側目に丸鼻は小寸のこけしに描かれた描彩だと言う。この2本だけでは何とも言えないが、戦前の武雄は木地挽きが中心で、描彩は小寸物しかやらなかったのかも知れない。そのため、戦後の復活作では、この描彩がされたのであろうか。今まではっきりしなかった武雄の古作解明に少しは近づいたであろうか。
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コメント
大変勉強になります。
近々カメイさんに行く予定です。
皆さんのお気に入りこけし達に会えるのが楽しみです。
ドキドキワクワク!
投稿: ピノ助 | 2012年7月16日 (月) 07時22分
武雄さん,若くして急に亡くなったため調べた人が居ないのですよね。
投稿: しょ〜じ | 2012年7月16日 (月) 11時13分
ピノ助様
こんにちは。
カメイ美術館はそんなに混まないのでゆっくり見学できます。色々なこけしが並んでいますから、時間をかけてじっくり見てきて下さい。トークショーにもぜひお越し下さい。
投稿: 国恵志堂 | 2012年7月16日 (月) 11時55分
しょ〜じ様
お久し振りです。
武雄さんは昭和30年代以降のものは割合ポピュラーですが、それ以前のものは殆ど知られていないようですね。他の秋保の工人と較べても、もっと追求してみたい工人ですね。
投稿: 国恵志堂 | 2012年7月16日 (月) 12時01分