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第764夜:梅こけしの系譜

Ume_kokeshi_meishi前回、高橋忠蔵、通の梅こけしの紹介をしたので、改めて梅こけしの系譜について纏めてみた。所謂「梅こけし」は弥治郎系の大野栄治の創作によると言われている。そのこけしは栄治の他、同系列の小倉嘉三郎-篤-勝志と引き継がれている。一方で、この梅こけしは遠刈田系と土湯系にも波及している。遠刈田系については第87夜で紹介したように、昭和14年に米浪氏が持参したこけし絵を元に佐藤円吉が作り始めたという(「こけし手帖54号」参照)。一方の土湯系では、同じ昭和14年に鳥居氏が描いたこけし絵により高橋忠蔵が作ったという(「こけし手帖256号」参照)。口絵写真は、米浪氏のこけし絵が描かれた名刺である。

Ume_kokeshi_hikaku

写真(2)に各系統の梅こけしを示す。左から土湯系の高橋通、忠蔵、3本目が大野栄治(弥治郎系)、4本目からは遠刈田系の佐藤円吉、治郎、大沼昇治のこけしである。遠刈田系の梅こけしも、土湯系の梅こけしも、同じ昭和14年に大野栄治のこけし絵を元にして作られたというのは面白い。しかしながら、その経緯については全く異なるので、「こけし手帖」の記事を元にここで紹介しておきたい。

先ず、円吉の梅こけしについては、手帖54号に米浪氏が『円吉梅こけし』と題して記事を載せている。それによると、『それは昭和14年5月のこけしの旅の出来事である。私はいつも旅の用件を知ってもらう為に、こけし絵を書いた名刺を用意して、出掛けるのが常であった。この時は大野栄治の梅こけしを描いた名刺を、訪ねた工人に手渡した。遠刈田では、円吉にもこの1枚を使った。旅が終わって二ヵ月位は、注文のこけしが続々と到着し、毎日うれしい日が続いたが、計らずも円吉から届いたこけしは、頭部の描彩以外は、すべてくびれた形も胴模様も、大野栄治そのままであった。私は驚きと共に、不用意に犯した罪の反省に悩んだ。そして円吉宛に、決してか様な他系統のこけしを模作しない様に手紙を送ったが入れられず、次々と他の愛好者へも送った様である。・・・(中略)・・・。円吉の梅こけしも、25年も経った今日、最早や伝統の様にさえなっているのではないか』。

一方、忠蔵の梅こけしについては、手帖256号に松井貞夫氏が『老工から聞いた話-高橋忠蔵さんの思い出-』という記事を載せている。それによると、『忠蔵さんの梅こけしを見た人は多いと思います。後で知ったのですが、これは忠蔵さんの余技で、例えばこの日のように、客へのサービス精神で描くことが多かったようです。梅こけしについて、その日忠蔵さんは、こんな話をしてくれました。「昭和14年頃と思うが、東京からたずねてきた鳥居さんという人に和紙に描いたこけしの絵を見せられ、こんなこけしを作ってくれないかと熱心に頼まれたのです。お客さんの注文だから、何でもできそうなものはやろうと思ってやってみたら、予想以上によいできだと喜ばれました。後日、この型のこけしを作って、原ノ町の駅前の店に出したらよく売れた。鶯は、思い付きで後から時々かき加えるようになったものです。」 弥治郎型を思わせるこの梅こけしに、今、系統性をうんぬんすることは無用でありましょう。このこけしは、忠蔵さんのサービス精神と、創作意欲と、多少の茶目っ気が生み出したものであります。』

このような経緯から作られた梅こけしであるが、円吉梅こけしは、その後、息子の治郎、その弟子の大沼昇治が自身の主要なこけしとして作ったためもあって、今や、遠刈田系のこけしの範疇に数えられている。一方、忠蔵梅こけしは、あくまで余技として作られたもので数量も少なく、佳隆への伝承も定かでない。「伝統こけしとは何ぞや?」を考える上での参考になる事例であろう。

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コメント

今回は少し長めのエピソードながら興味深い内容でした。伝統とはいえ、人がしていることゆえの副作用?が楽しく感じられました。
季節の変わり目でようやく涼しくなりましたね、どうぞお身体に気をつけてこれからも楽しい話題をお願いします。

投稿: NT | 2012年9月25日 (火) 14時27分

NT様
お久しぶりです。
お陰様で腰痛の方もようやく快方に向かってきたようです。
戦後は新型/創作こけしと区別するために「伝統」という言葉が声高に叫ばれてきましたが、戦前は結構自由に色々なものが作られていたようですね。また、昨今の第三次こけしブームでは、伝統と創作の垣根が曖昧になってきているようです。今後、こけしはどうなっていくのか期待と不安の今日この頃です。

投稿: 国恵志堂 | 2012年9月25日 (火) 16時38分

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