第777夜:藤原政五郎のこけし
昨日、今日と秋らしい暖かな日差しが続いている。本ブログも今夜は記念すべき「777」夜を迎える。題材となるこけしは幾つかあるが、何にすべきか考えていた。そんな折の先週、同好の仲間からヤフオクに藤原政五郎のこけしが出ているが、「どうですか?」と聞かれた。南部系のこけしとは出会いが少なく、政五郎のこけしも持っていなかったので、改めて出品写真を見て見ると、なかなか良いではないか。とは言え、政五郎こけしにはイミテーションも多いと聞く。そこで、文献を調べてみると、どうやら政五郎のB型というものらしいことが分かった。保存状態も良いようなので、これなら1本欲しいと入札に参戦し、ほどほどの価格で手にすることが出来た。今夜は、そうして我がコレクションの一員となった政五郎のこけしを紹介したい。口絵写真は政五郎の表情アップ。
南部系の藤原政五郎は明治16年、岩手県稗貫郡湯本村湯本(五郎城)の生まれ、藤原酉蔵の長男である。木地は父酉蔵に習い、夏季には台温泉で酉蔵と一緒に玩具類を挽いていたが、大正末期からは五郎城で一年中仕事をするようになった。こけしは昭和18年頃まで作り、昭和22年に65歳で没した。以上が「こけし辞典」での紹介で、政五郎こけしにはA~Eまで5つの型があり、その詳細は「こけし手帖91」で柴田長吉郎氏が解説している。
その「手帖91」に依れば、A型は昭和10年以前の政五郎木地・描彩のもの、B型は昭和12,3年頃の政五郎木地、描彩は政五郎長男の新吾のもの、C型は昭和14年以降(新吾応召後)の政五郎木地・描彩のもの、D型は花巻の長寿庵の依頼で政五郎が作ったもの、E型は詳細不明となっている。
写真(2)が本項のこけしである。大きさは尺。胴中央部やや上に帯状の膨らみがあり、中央部やや下からは裾にかけて直線的に繋がっている。「手帖91」掲載の政五郎こけしの写真から、本項のこけしはB型であることが分かった。決め手は、鬢が平筆で長く下部が細く1つに纏まり、細面の顔になっていることである。A型も鬢は長いが、平筆ではなく数筆で描かれており、顔の面積は広い。C型はB型の顔を真似ているが、鬢は太く短く、やはり細面ではない。
このこけしが手元に届いてから、童宝舎の「コレクション図集(その七)」を見てみた。すると本項のこけしと瓜二つのこけしが載っているではないか。大きさも30cmで帯付の形態も胴のロクロ模様も同じ。面描も双子のようである。この2本が同時期に作られたものであることは間違いないであろう。図集では製作年代を昭和15年頃としているが、戦前の新吾の描彩は昭和10年から応召する14年までなので、やや遡ることになろう。
この政五郎こけし、胴を持ってみるとそれほど重くなく、温かみがあって握り心地が頗る良い。一方、頭は結構ツルツルで冷たい感じがする。木地の材料が異なるのであろう。胴のロクロ模様は画一的なものではなく、線の太さや間隔にも変化がある。赤ロクロ線は首下部と中央の帯部、そして裾部は太く、肩の部分はやや細くなっている。緑ロクロ線は胴の帯部は太く、そこから上下に細くなっており、ぼかしやグラデーション効果も見られ、最下部の太いロクロ線で全体を締めている。こけしの模様としては、極単純な2色の線模様ではあるが、実に味わい深い配色である。面描は、小さな前髪に長い鬢、右斜め上に視線を送る眼は大きな黒目勝ちで、夢見る乙女のようである。「南部系侮れず」と思わせる政五郎こけしに一本取られてしまった。
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