第811夜:盛の入れ子こけし(戦前)
高橋盛の入れ子こけし(戦前)を入手することが出来た。戦前と書いたが、盛の戦後の入れ子は見たことがなく、戦前、それも秋田時代だけなのかも知れない。大正期からのこけしが残っている盛のこけしは、前期鳴子時代(戦前)、秋田時代、後期鳴子時代(戦後)に大別され、そのこけしの経年変化も各種文献でかなり詳しく報告されているが、秋田時代だけは不明な点が多く、詳細が分からない。その秋田時代の盛こけしには、胴に帯を付けたもの、もんぺこけし、そして入れ子こけしと、他の2時代には作られなかったこけしが作られている。秋田時代は昭和14年から23年までのほぼ10年。その時代がそうさせたのか、あるいは秋田という土地柄がそうさせたのか、それを語るものは無く、当時の盛のこけしからそれを想像するのみである。盛の入れ子こけしの存在は「木の花(第弐拾弐号)」に記載されており、その現品は「ひやね」で見ることが出来た(第134夜参照)。今回入手した入れ子は欠品もあり、保存状態も良くなかったが、盛の入れ子としては別種のものであり、ぜひ手元で眺め、研究したいと思っていた。口絵写真は、入手した入れ子の中では一番大きなこけしの表情である。
写真(2)が入手した入れ子。こけしは3個で、一番大きなものは上半分だけで下半分は欠損している。一番小さなこけしも胴が2つに分かれているので、さらに小さなこけしが入っていたと思われる。「木の花」掲載の入れ子は5個構成なので、本稿の入れ子も更に大きな1体があった可能性がある。「木の花」の5体は大きい順に、特大:尺3分、大:6寸5分、中:4寸1分、小:2寸4分、特小:1寸4分(作り付)であるが、本稿のものは、特大:無、大:3寸9分(上部のみ)、中:3寸8分、小:2寸1分、特小:無。従って、残っている中、小を比べると「木の花」より小さく、5本組だったとすれば特大は尺、特小は1寸程だったと思われる。胴の汚れ具合から、胴には黄色が塗られていたものと思われる。
写真(3)は、完品の中と小を上下に分けたところ。中は角肩の形態で、小は段のない丸肩になっている。面描は鬢が外側に描かれて顔の面積が広く、左右の眉・目も外寄りに描かれている。眼点は大きめで、小品にも拘わらず表情はすこぶる格調が高い。中の胴下半分には楓が3葉描かれているが、たちこ以外で楓が描かれるのは戦前作では珍しい。
写真(4)は、小を中の中に収めた状態を斜め上から見たところ。中も小も胴上下の嵌め込みはしっかりしており、木地技術の素晴らしさを物語っている。
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