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第832夜:温顔静姿

Takezo_s14_kao鳴子の高橋武蔵の製作歴は長く、大正時代から昭和44年に亡くなるまでの多くの作品が残っている。戦前から戦後まで殆ど休むことなく一貫して作られた武蔵のこけしはあくまで標準的なものであり、その作行に大きな変化は見られない。「温顔静姿」は「高亀」こけしを評する代表的な言葉であり、それは武蔵のそうした製作姿勢から生まれたものであろう。今回紹介する武蔵こけしは、その中でも正に「これぞ武蔵!」と言って良いほどの代表的なものと思う。口絵写真は、その武蔵こけしの表情である。

Takezo_s14

写真(2)がその武蔵こけし。大きさは尺。胴底には入手者が書いたと思われる「高橋武蔵 昭和十四年六月十五日」の書込みがある。頭はやや横に広い丸頭で、胴は太いが直線的でどっしりとした重量感がある。肩の山は大きく高い。胴には3段の重ね菊が大きく描かれている。頭が横広ぎみなので顔の面積も広く、眉・目は鬢寄りに大きくゆったりと描かれている。やや視線を下げ、かすかな微笑みを湛えた表情は、まさに「温顔静姿」を体現したものと言える。

Takezo_s14_hikaku_2

写真(3)に昭和10年代の武蔵こけしを並べて見た。右から昭和10,11年頃、同13年頃、同14年、同16,17年頃。右端は胴細めで肩の山は低い。3段重ね菊の最下段の菊には茎が無く、緑の土から蔓が左右に2本ずつ出ている古い描法である。右から2番目では肩の山が高くなり、最下段の菊には緑の土が描かれているが蔓は描かれていない。左から2番目の本稿のこけしでは最下段の土も描かれなくなっている。左端のこけしは、頭がやや縦長となり、眉・目の描線に勢いが無く寂しげな表情である。また、最下段の土も最上段の蔓も描かれなくなった。

Takezo_s14_syomei

写真(4)は胴裏であるが、中央の2本には胴裏下部に「高橋武蔵」という名前が書いてある。戦前の武蔵こけしには署名は無いのが普通であるから、これも本人署名では無いと思われるが、2本のこけしの同じような場所に名前が書かれているのは興味深い。

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コメント

本人の字に似ているような気がします。

投稿: しょ~じ | 2013年5月30日 (木) 19時42分

しょ~じ様
お久しぶりです。
そうですか。では本人署名ですかね。
客に頼まれて書いたのかも知れませんね。

投稿: 国恵志堂 | 2013年5月31日 (金) 19時10分

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