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第843夜:「高勘古作」

Kikue_kosaku先日、ヤフオクに鳴子系の古そうなこけしが出ていた。出品タイトルは「鳴子不明」で、コメントにも特段の記載はなく、詳細は不明であった。胴模様は殆ど飛んでいて写真からは分からず、面描から「高勘」系のこけしであろうと推測した。このような黒いこけしは一般のこけし愛好家からは敬遠されたであろうが、やはり好きな方は居るようで二人だけでの結構な競り合いになってしまった。落札後、出品者が「ひやね」さんであることが分かりびっくり。「ひやね」ではお店や「往来」での入札会をやっており、良いものは当然そちらに回るはずだからである。今回のこけしは、あまりに黒くなっているためにヤフオクに出したのであろうか。口絵写真は、その黒こけし(以下「高勘古作」)の表情である。

今回、頑張って入手したのは私が収集に力を入れている「高勘」系のこけしであることと、その木地形態の美しさに惚れたからである。ぜひとも手元で眺めその素性を調べるのが大きな目的であった。一応、戦前の作ということで見て行くことにしよう。先ず目につくのは、角張った平頭である。また反りの大きな胴は正末昭初の勘治一家のこけしを思わせる。但し、正末昭初の勘治一家のこけしに平頭は見つからない。戦前こけしの中心となる「盛」のこけしで考えれば、平頭は昭和7年頃の「木形子洞頒布」時のみである。但し、この頃の平頭はもう少し丸みがあるようだ。そこで文献を調べていくと、「古計志加々美」の278番が角ばった平頭であることが分かった。

Kikue_kosaku_hikaku_2
写真(2)は右が「古計志加々美」278番(6寸5分)で左が本項の高勘古作(6寸)。ともに角張った平頭であるが、本項のこけしの頭の方がより雄大である。但し、「古計志加々美」では、278番は描彩は盛であるが木地は不明となっている。なお、「木の花」では「木形子洞頒布」頃の木地は盛雄ではないかと指摘されている。

次に特徴的なのは面描である。振り分けた前髪は大きく、それに接するように鬢が雄大に描かれている。鬢は細筆で一筆ずつ描いたのではなく、平筆でばっさり描かれている。これも大正期から使われている古い描法である。また、鬢の上に赤い鬢飾りは無い。

そして、顔の中央より下に描かれた一筆目である。目が下にあるため眉との間隔が広く、また眉目は鬢側に離れて描かれている。盛の面描では、目鼻は中央に寄って描かれており、それが集中度の高い張りのある表情を生み出している。この高勘古作の面描はそれとは正反対である。何とも優しい雅な表情なのである。そこから、このこけしは女性の筆になるものではないかと考えるに至った。

Kikue_hikaku_2hon
そこで、戦前の高勘の女性描彩者である「きくゑ」を考えて見た。写真(3)は右が高勘古作で左がきくゑのこけし(5寸8分、昭和10年頃)。きくゑの場合、木地は当然別人であるから、ここではその雰囲気を味わって頂きたい。高勘古作の胴模様は殆ど消えかかっているが、左のきくゑと同じような楓模様が描かれている。

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写真(4)は、(3)のこけしの頭頂部の比較。鬢に接して描かれる大きな振り分けの前髪の描法など、良く似ていると言えないだろうか。

Kikue_kao_hikaku
写真(5)は、(3)のこけしの面描アップ。大きな鬢(左は細筆、右は平筆の違いはあるが)、大きめの丸鼻なども類似性を感じる。また、「こけし辞典」に掲載されているきくゑのこけしは一筆目ではないが、眉目がかなり離れた下目になっている。残念ながら、きくゑの一筆目のこけしを見たことがないため、これ以上の推測は難しい。

きくゑは大正5年に盛と結婚し盛こけしの描彩を手伝ったという。本項の高勘古作はそんなきくゑが正末昭初に描いたこけしなのではないだろうか。そんな思いを抱かせるこけしであった。

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