第870夜:高橋勘治一家のこけし
去る21日、カメイ美術館で開催されていた友の会創立60周年記念展示会の撤収作業を終えて帰宅し、二日ぶりにヤフオクを眺めていると、鳴子系のたちこが出品されていた。「高橋勘治一家 4寸 大正期古品」というタイトルと出品写真から、それがあの著名な鳴子古品であることは直ぐに分かった。この日、カメイに展示していた大正期盛のこけしを持ち帰ったばかりであった。この盛こけしは前日まで、西田コレクションの大正期盛(西田記念館では「高橋勘治一家」と呼ばれている)と3カ月間仲良く並んでいたものである。離れ離れになって寂しくなり、仲間を呼んだのではないかと思った。そんなタイミングでの出品であった。出品には即決価格が設定されており、一晩考えて翌日に落札した。口絵写真は、その勘治一家のたちこである。
この出品作のたちこは、その出品者から無為庵氏のものであろうことは直ぐに分かった。無為庵氏のブログ「無為庵閑話Ⅱ」の「こけしの話(45)」に掲載されているからである。その保存状態の良さに感嘆したものである。こけし収集とは全く無縁のある方が祖父の13回忌を機に遺品整理をしたものだそうである。
写真(2)は、勘治一家のたちこを3方向から見たもの。細身の4寸であるが肩に付けた段がアクセントになっている。実に美しい形態である。頭頂部は細い前髪を二つに振り分け、水引は3筆で左右平行に描いている。一筆の目は眉の位置にすっきりと描かれている。胴の赤い楓と緑の茎葉が鮮やかである。退色は全くなく、保存状態の良さが分かって頂けると思う。
勘治一家のこの手のたちこは、「日本土俗玩具集」に掲載された勘治のこけし4本の中に見られ、また「これくしょん(45号)」では群像として紹介され有名になっている。この「これくしょん(45号)」は昭和16年2月5日に発行され、その中の即売こけしの一葉に小寸こけしの群像が掲載されている。大正期の古鳴子や古高湯が20数本載っており、4寸たちこは8本掲載されている。1本1本フォルムや描彩にも違いが見られ楽しめる。本項のたちこはこの8本とは別物であるようだ。
また、この手のたちこ(米浪旧蔵)は「ひやね」の入札にも出品されたことがあり、「こけし往来(第34集)」の表紙を飾っている。この米浪手と本項のたちこを比べると殆ど同様であるが、1点、鬢が違うことが分かる。米浪手は鬢が2筆であるが、本項のたちこは1筆なのである。「これくしょん」の群像は写真が小さくよく分からないが、1筆と2筆があるようだ。
写真(3)は本項のたちこ(中央)と福寿の同型のたちこである。福寿作は殆どが右手のように2筆であるが、左手のような1筆風(実際は2筆)もあるようだ。
写真(4)にカメイから持ち帰った大正期盛と並べて見た。実にしっくりとした2本である。ほぼ同時代に作られ幾星霜を経たこけしだけに醸し出せる雰囲気なのであろう。正に鳴子系の名品である。
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