第873夜:橘コレクションのこけし(氏家亥一)
「こけし辞典」によれば、氏家亥一は明治44年、福島県伊達郡睦合村の生まれ。小学校卒業後、大正14年に中の沢の木地講習会で佐藤豊治について木地修業をした。その後、昭和6年まで岩本善吉についたが、身体が弱いので木地を止め平沢屋の番頭になった。
この氏家亥一のこけしが最初に紹介されたのは、橘文策氏の「木形子談叢」で、そこでは『氏家は旅館平澤屋の息子で、二十才を出たばかりの青年である。木地はあまり熱心でない様であるが。こけしは師の技巧を取入れて土湯系のものを作っている。型の上で特色とする所は、頂辺を切落した様な頭である。色彩は極めて単純で、黒赤二つを主色に組合せて持味としている。年のせいか何となく板につかない危な気がある。ただ胴の轆轤模様だけは土湯系に珍らしく繊細である。無数にひかれた細い線をみていると、瀧ノ原こけしのネバリ強さを聯想させられる』と。写真掲載のこけしは大小2本で、『氏家亥一作 頭飾は赤と黒 純然たる土湯系である』 この「木形子談叢」は昭和10年7月の発行で、その中の「新作者展望」では『ここでいう新作者とは、・・・、武井氏の日本郷土玩具東之部以後に見付け出した作者を、・・・』とあり、「日本郷土玩具東之部」は昭和5年1月の発行であるから、氏家のこけしは昭和5年から10年までの間に作られたものと考えられる。なお、この氏家こけし(大)は「こけしと作者」の81頁の第16図に再掲されており、大きさは尺1寸となっている。
さて、写真(2)が氏家のこけしである。「木形子談叢」掲載のこけし(大)の現品である。大きさは尺1寸2分。受け取った時点では、全体に相当黒くなっていた。そこで消しゴムで汚れを取ると頭部の黒墨はかなり取れ、頭頂部の黒と赤のロクロ線も鮮明になった。また、顔の描彩もはっきりしてきて、目の廻りを赤く塗っていた痕跡もうっすらと分かるようになった。ただ、胴のロクロ線は赤以外(おそらく紫か?)は殆ど消失しており、「木形子談叢」で見られる鮮やかで繊細な模様は残念ながら再現できなかった。
写真(3)、(4)は善吉の氏家型(上)と本型(下)の頭部の比較である。頭頂部は氏家型の方がより扁平であり、蛇の目模様は氏家型は赤と黒で本型の緑と黒よりも強烈な印象を受ける。黒のみで櫛形の前髪と短く太い鬢、三日月形の目に写実的な鼻、やはり写実的な赤い口は格調高く、本型のおっとりした表情とは対照的でもある。また、目の周りの赤い頬紅や後頭部のツンゲは両者に共通している。
この氏家亥一のこけしは、現在では善吉作(木地は氏家か?)として通っており、善吉の氏家亥一型として、中の沢の工人達にも引き継がれている。この表情の亥一型は今のところ「木形子談叢」の2本しか知られていないようだ。
写真(3)は胴底の状態である。善吉の特徴でもある深い鉋溝が真ん中に通っている。また、橘氏のこけし絵のラベル(KOGESHIDO)が貼ってある。
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コメント
消しゴムで汚れを取ることができるんですね。
消しゴムの種類とかこだわりがあるのですか、ほかにも汚れをとる方法はあるのですか、教えてください。
投稿: km | 2013年11月 4日 (月) 09時13分
km様
日焼けなどで古色が付いたものはどうしようもありませんが、埃などが長い年月でこびり付いたものは、消しゴムでこするとある程度汚れが取れます。木地や彩色を損なわないように、砂消しなどは使わず、昔からのゴムの消しゴムを使っています。顔など染料が赤と黒のものは綺麗になりますが、緑や紫を使った胴のロクロ線などは、汚れを取らない方が微妙な色彩が残って見て取れるようです。この辺はこけしの雰囲気の問題もあるので、綺麗にしない方がかえって味わいがある場合もあるかも知れません。ケースバイケースなんでしょうね。次回(栄五郎を予定)の文中で汚れのとれ具合を写真で説明致します。
投稿: 国恵志堂 | 2013年11月 4日 (月) 10時34分