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第895夜:安太郎のこけし(戦前ふたたび)

Yasutaro_s18_kao先日(21日)締め切りだった「ひやね」の入札で鈴木安太郎の戦前作をゲットした。通常一人の工人の戦前作はいいとこ2,3本止まりなのであるが、安太郎はこれで大小合わせて6本となった。安太郎の戦前作は昭和12年から18年までのものとのことであるから、それを考えると多い方であろう。先だっての橘コレクションで安太郎の早い時期のものを入手していたが、今回の出品は18年もので保存状態も良く、戦前作の変化を見る楽しみもあって入札に参加したのである。口絵写真はその表情である。

安太郎とそのこけしに関しては、こけし手帖85号、86号に「寒河江のこけし」と題して安孫子春悦氏が詳しく解説されている。それによると、父米太郎が盛んにこけしを作ったのは明治38年から40年頃で、その頃に安太郎もこけしを作ったかも知れないが定かではない。大正になると西洋玩具が入ってきてこけしは売れなくなり、安太郎はこけしを1本も作っていないと言う。安太郎がこけしを作り始めたのは昭和12年、川口貫一郎氏の勧めによるもので、以来、昭和18年までが戦前の安太郎のこけし製作期である。

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さて、写真(2)が本項のこけしである。大きさは8寸。胴底の署名は「山形県寒河江町 鈴木安太郎 49歳」となっており、「昭和18.10」の書込みもある。やや古色は付いているが緑の色が良く残っており、赤と緑のコントラストが鮮やかである。署名より戦前最後期の作と思われる。戦前の安太郎というと鋭角的な描線で剛直な雰囲気のこけしが代表的であるが、本項のこけしでは木地形態がやや丸みを帯び、面描にも優しさが感じられる。胴右下部に描かれる柵に赤点の飾り(小花であろうか)が付いているのは他の時期には見られないようだ。

Yasutaro_s18_hikaku
写真(3)に戦前と戦後直ぐの安太郎こけしを並べて見た。右から、昭和13年頃(第874夜)、昭和14年頃(第576夜)、本項のこけし、昭和34年頃。こうして比べてみると、戦前の数年間でも頭の形、面描にかなり変化があることが分かる。一方、左の2本を比べてみるととても良く似ているのが分かる。安太郎の戦後は昭和30年から始まるのであるが、戦後直ぐのものは昭和18年作と殆ど変わらない。左端は胴底に「S34」の書き込みがあるが、頭がやや丸くなったのと、鼻の上端が目の位置に下がった程度の違いしか見られない。安太郎のこけしが大きく変わるのは昭和35年からである(第709夜参照)。

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