第900夜:再び希三
写真(2)が本項のこけしである。大きさは7寸8分。胴底には、マジックで「希三. S.10.末」と鉛筆で「木精舎 旧溝口」の書込みがある。希三のこけしは昭和14年頃からのものが知られており、本項のこけしも14年頃と思われる。但し、14年でも初期のものは眉目が顔の上方に寄った特異な表情をしており、本項のこけしは目が下がっているので、14年でも後ろの方になるのであろう。やや縦長の蕪頭、細身の胴に黄色を塗り、ピンクがかった赤ロクロ線が木地に滲んで良い味を出している。伏し目がちな表情が東北のおぼこい乙女を思わせる。
写真(3)は右から昭和14年は初め、真ん中は14年の後ろ、左は16年の作。これを見ると希三のこけしがどのように変化していったかが良く分かる。右では鬢飾りは付いておらず、真ん中から付くようになる。また、胴模様の上部の横菊も右では全花弁が上を向いているが、真ん中では一番外側の花弁は横に垂れており、左の菊模様への移行を感じさせる。右は大沼竹雄の胴模様をそのまま真似たものであるが、左は岡崎斎の菱菊に近づいている。
写真(4)は写真(3)の3本を斜め上方から写したもの。頭頂部の赤い水引き、肩上部のロクロ線の変化が見てとれる。肩上面は、右では何も塗られていないが、真ん中では黄色に、そして左では赤に塗られている。
このように、戦前の希三のこけしが僅かな間に大きく変わっていったのは、希三が特定の師匠を持たず、自由にこけしを作れる環境にあったことが影響していると思われる。第一次こけしブームの最中、当初は野趣溢れるこけしであったが、当時人気のあった岡崎斎系の華麗なこけしにと変化していったのであろう。
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