第913夜:忠のこけし(3)
写真(2)が今回入手した忠こけしである。大きさは1尺1寸7分。胴底に「鳴子 秋山忠 昭和19.2」との書き込みがある。均整のとれた形態で、胴下部に鉋溝が1本入っている。保存状態は良く、ピンクがかった赤と緑のロクロ線ははっきり残り、胴には一面黄色が薄く塗ってある。前髪と鬢に囲まれた顔の面積は小さく下膨れ気味であるが、眉・目の描線は細く鋭く、気品がある。
写真(3)は以前に入手した忠こけし(第566夜参照、昭和13年頃)と並べて見たところ。鉋溝の位置が異なるが、菱菊の胴模様はほぼ同じようである。但し、胴の赤・緑のロクロ線を比べてみても、全体的に描線が細くなっているのが分かる。
写真(4)(5)で顔の表情と頭部を比べて見た。右のこけしでは、顔の各パーツ、前髪、水引、鬢、眉・目、鼻・口が太い筆致で大振りに描かれている。特に、眉と目は鋭角的に描かれ、アクセントも付いており、それが忠こけしの特徴の一つともなっている。一方、左のこけしでは筆も細く、筆致も滑らかになっている。右の幼女が年頃の乙女に成長したような感じで、整って大人びた表情に変わってきたと言えよう。もっとも、これは忠こけしに限ったことではなく、大沼希三や健三郎を見ても、初期の大胆な描彩が第一次こけしブームの中で、所謂綺麗なこけしに変わっていったのと同様の現象であろう。各工人毎に特色のあった鳴子こけしが同じようなこけしに変わっていったのは残念なことである。
写真(6)で手元にある3本の忠こけしを並べていた。大きさも製作時期も異なる3本が上手い具合にまとまってくれた。忠こけしの昭和10年代の前半、中頃、後半の各時期の特徴が良く分かり、なかなか良い群像となった。入手し難い戦前のこけしであっても、やはり1本より数本を並べて眺めてみるのは楽しいことである。
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