第927夜:橘コレクションのこけし(佐藤末吉)
写真(2)(3)が本項のこけしと胴底のラベルである。大きさは6寸2分。完全に鳴子系の形態で胴下部に鉋溝が1本入っている。頭は胴に緩く嵌め込まれて、キナキナのようにクラクラと動く。 末吉の経歴については第855夜に記載したが、師匠の伊藤松三郎と共に北海道や鳴子に行き、徴兵検査のために花巻に帰郷して開業したとある。徴兵検査は20歳の時に行うので、末吉が花巻に戻ったのは昭和初年と考えられ、このこけしはそれ以降のものと想定される。「愛玩鼓楽」のno762は昭和10年頃となっており、本項のこけしはそれより古い様式と思われることから、本項のこけしは昭和1桁台のものと考えられる。
本項のこけしを末吉と考えた要因の1つに胴横に描かれた蕾が挙げられる。写真(4)は第855夜で紹介した昭和15年頃の末吉こけし(左)と本項のこけし(右)の側面を眺めたものである。いずれも胴下部の葉から茎が伸びて、その先に蕾が描かれている。「愛玩鼓楽」のno762にも胴の両脇に蕾が描かれていると書かれていることから、初期の末吉こけしには蕾があったことが推定される。なお、本項のこけしでは、蕾が下向きに描かれている点が興味深い。
写真(5)は写真(4)の2本の頭頂部の様式。左の作は一般的な末吉こけしの頭頂部と変わらないが、右の本項の作では、前髪を束ねて後ろに回し、それを丸めて前髪に戻している。左とは明らかに異なる描法であり、類例を見かけない。また、赤い水引は「高亀」の様式に似ている。
写真(6)に末吉のこけしを年代順に並べて見た。右から本項のこけし(昭和1桁代)、昭和15年頃、昭和10年代末から20年代初め頃、戦後20年代。右から2本目、4本目の帯付きこけしの胴模様は、本項のこけしの胴模様の真ん中の菊模様を帯で置き換えたものであり、3本目のこけしは、一番上の横菊を省いて、真ん中と下の正面菊を描いたものである。いずれも、本項のこけしの胴模様が元になっていることが分かる。
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