第943夜:昭二と力のデカ目こけし
鳴子のデカ目こけしについては、第907夜で桜井昭二さんのこけしを例にして解説している。今回、その昭二さんと新たに力さんのデカ目こけしが手に入ったので紹介したい。
写真(2)は、左が昭二作の6寸8分(昭和22年6月作で第907夜のものと同時期)、右が力作の6寸6分で署名などは無いが昭和20年代前半のものと思われる。このように目の大きなこけしは新型こけしの影響を受けた伝統性に乏しいものとして評価の低いものであった。しかし、新型こけしが流行るのは昭和20年代の後半から30年代の前半にかけてであって、この2本が新型こけしの影響を受けたとは言い難い。
写真(3)は頭部(特に鬢飾り)の描彩を示したもの。両者は目が大きいだけでなく、鬢飾りも似ているのが分かる。最も、この鬢飾りの様式は戦前の第一次こけしブームに際し鳴子で人気のあった岡崎斎が描いたものであり、胴の菱菊模様と相まって鳴子の代表的な様式でもあった。
戦後の鳴子こけしで、目の大きなこけしは時々見かけるが、署名はなく誰の作かも分からないものが多い。今回の2本は著名な工人の作ということで貴重な作例である。では、何故、この二人がデカ目のこけしを作ったのであろうか。二人の師匠(父親)である万之丞と誓のこけしを見ると、鳴子系の中でも目が大きめで愛らしいこけしであることが分かる。
写真(4)(5)は万之丞と昭二のこけしである。左から万之丞(昭和15年頃、第937夜)、万之丞又は昭二(昭和18年、第911夜)、そして本項のこけしである。鬢飾り、目、菱菊模様など、本項のこけしが一連の流れの中の1本と言っても、それほど違和感は感じられない。
写真(6)(7)は誓と力のこけしである。左から誓2本(昭和18年、第821夜、794夜)と本項のこけしである。蕪形の頭、大きな前髪と鬢飾りは誓から受け継いだものであることが分かる。力さんは昭和20年から木地修業を始め、こけしも作り始めたというから、父誓のこけしを見習って作ったものであろう。しかし、誓のこけしにこんなデカ目こけしは見当たらない。「こけし・人・風土」の第101図(145頁)に本項のこけしと同趣のこけしが載っているが、目の位置はもう少し上であり、大きさもこれ程大きくはない。本項のこけしとどちらが古いのかは興味のあるところである。力さんが健在な内に、その辺りの話を是非聞いてみたいものである。
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