第953夜:まがいもの・・・
今日は人間ドックを受診したきた。在職中は会社で毎年健康診断が行われるが、退職すると後は自己管理となるので人間ドックの受診はその対応でもある。前回の受診から1年以上経ち、また気になる症状もあったことから申し込んだのだが、胃の内視鏡検査受診者が多く、一ヵ月以上も待たされてこの時期になってしまったものである。殆どの検査は1時間以内で終わり、流石に胃内視鏡は時間がかかったが、それでも午前中には全ての検査が終了し、12時からの医師による結果説明を聞いて帰ってきた。幸いなことに現在治療中のもの以外には問題となるような所見は無かったようだ。これで安心してブログの更新にも打ち込める。
さて、タイトルの「まがいもの」であるが、辞書を引くと「本物と見分けがつかないほど、よく似せてつくってある物。にせもの。模造品。イミテーション。」とある。現在こけし界で一般的に使われている「写し、復元」とは異なるものである。最近、ヤフオクに盛秀太郎のこけしと極似したこけしが出品されている。署名のないものも多いが、中には工人名の記載された
ものも見受けられる。盛秀こけしの人気は凄まじく、第二次こけしブームの頃には入手困難、そんなことから収集家の要望でその「まがいもの」が作られたのであろう。そういう類のものは一般には流布せず、一部の好事家の間で秘匿されてきたのであろうが、それらが処分品としてネット上に出て来たのであろう。小椋久太郎も盛秀型を作っているが、盛秀こけしと瓜二つではなく、一目で久太郎作と分かるものである。それでも問題ではあるが、久太郎という名が許容させた面はあるだろう。
口絵写真は、小関幸雄(?)の栄治郎型の表情である。「?」を付けたのは確認出来ないからである。
写真(2)に本項のこけしの全体像を示す。栄治郎型のこけしであることは一目で分かる。しかし誰の作かと問われれば答えに窮する。栄治郎型の継承者である岡崎幾雄、直志、昭一、田中恵治とは思われないし、斉藤源吉、田中敦夫、石沢角四郎、寅雄や岡崎せつ子(601夜参照)とも異なる。
写真(3)に頭頂部と胴底を示す。この胴底の書き込みの内、「栄治郎型」と書いたのは、このこけしの製作者かも知れない。「43.9.23」「小関幸雄」は入手者の記入と思われる。小関幸雄は列記とした弥治郎系の工人で新山福太郎の後継者でもある。その幸雄が何故に系統の異なる蔵王系の栄治郎型を作ったのであろうか…。
このこけしを見てみよう。形態は一般的な栄治郎型よりも頭が大きく、肩も張っている。また首も栄治郎の原品とは形が異なる。顔の面積が大きく、眉と目は大きく離れ、円らな眼点は上目使いで大きい。幼く愛らしいこけしではある。一方、頭頂部の黒髪と華麗な手絡、鬢飾りなどは、「原」にかなり近い。殆ど裏模様かと思われる大きな横菊と2つの蕾、また帯下のラフな正面菊などから、仙台屋の栄治郎こけしを参考にして作られたのではないだろうか。昭和43年当時、幾雄は家業が忙しくて殆ど作れず、直志の栄治郎型にも迷いが見られるような状況下、収集家が小関幸雄に頼んだのであろうか。他の系統のこけしであっても、ひとかどの工人であれば、それを真似て作ることはそれほど難しいことではないと聞く。
昨今、言われる第三次こけしブームでは、栄治郎型や勘治型など、こけし界の名品と言われるこけしの人気が低い。伝統に忠実で本格的なこけしほど売れないようだ。小さく可愛いこけし、形態や模様が変わったこけし、特異な表情のこけしに人気が集中すると言う。そのような風潮に、特に若い工人は敏感である。これから10年の後に、果たして本格的な伝統こけしはどのくらい作られているのであろうか…。その疑問符が日々大きくなっていく昨今である。
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コメント
昨今の第3次ブームの現状は「おもと」のおばちゃんもよく嘆いていて、お店を訪ねるたびにその話になります。確かに、たこ坊主や現代の創作こけしまがいの斬新なデザインこけしも、それはそれで魅力のあるものでは有るのでしょうが、鳴子の勘治型や蔵王高湯の栄治郎型の様なこれぞ伝統こけしと言える様な重厚なこけしも、とても魅力があって、若い収集家の人達にも理解して欲しいものですが・・。
投稿: 益子 高 | 2014年8月15日 (金) 21時55分
益子高様
仰る通りですね。何故、いま勘治型や栄治郎型に人気がないのか…。第2次ブーム世代の我々には理解しかねることです。やはり根本的にこけしの見方が違うのでしょうね。それは仕方ないとして、そういう愛好家の方々に本当の伝統こけしとはどういうものかとか、その魅力について啓蒙しなければならないのでしょうね。そういう努力を我々も工人達もしていかないと、本当のこけしは滅んでしまうでしょうね。第3次ブームとか言って、浮かれている場合ではないのかも知れません。
投稿: 国恵 | 2014年8月16日 (土) 15時09分
まがいもの・・・作り手も作らせる方もやってることは今と似ているなと感じてます。
投稿: しょ~じ | 2014年8月25日 (月) 21時15分
しょ~じ様
収集家や業者の欲と工人の生活・腕前が生んだこけし界のあだ花なんでしょうね。一端の工人なら、どんなこけしだって作れるという。しかしそこには犯してはならない不文律というものがあった。それがなくなったら、もはや伝統こけしではありませんね。
投稿: 国恵 | 2014年8月26日 (火) 12時33分
不文律が破られすぎて・・・現在の○○型に魅力が無くなってきました。せめて遺族への仁義は切れよって言いたいです。
投稿: 国府田さま | 2014年8月26日 (火) 17時42分
遺族の了解を貰うことも一つの方法でしょうが、やはり縁もゆかりも無い他系統のこけしを作るのはどうでしょうか…。殆どの場合、愛好家の要望によるものと思われるので、集める側にも責任があるのでしょうね。
投稿: 国恵 | 2014年8月27日 (水) 22時17分