第977夜:荒井金七の小寸こけし
今年も師走に入った。本ブログも千夜一夜到達を目前にして足踏みしてしまい、本年中の達成は難しくなった。まあ、そういうことはあまり意識しないで進めていこう。11月はこけしのイベント紹介だけで終わってしまい、久しぶりのこけしの紹介である。今夜紹介するのは先日ヤフオクで入手した荒井金七の小寸こけしである。昭和8年の木形子洞(橘)頒布品という素性の良さに加えて全く退色していない保存の良さ、しかも抜群の出来の良さという三拍子揃ったこけしなのに、締め切り間際まで誰の入札も無かったのは、3寸強の小寸もので福沢6枚という最低価のせいだったのであろうか。熟慮の末、当国恵志堂に来て頂くこととなった。口絵写真は、その顔のアップである。
荒井金七は明治17年、山形県上ノ山町の生まれ。上ノ山尋常高等小学校卒業後、明治30年頃、蔵王高湯の岡崎久作の弟子となった。木地は栄治郎に主に習ったという。明治36年春、年期明け後に上ノ山に戻って独立開業した。その後、一時期米沢で働いたが、それ以外は上ノ山で営業を続けた。昭和30年2月19日没。72歳。こけしは大正期のものから知られているが、昭和8年から16年頃までのものに優品が多い。(以上「こけし辞典より」) こけし手帖644号の談話会覚書(19)で弟子の木村吉太郎と共に詳しく解説されている。
さて、本項の金七こけしを見てみよう。胴底に貼られた紙ラベルより、木形子洞頒布品で昭和8年の作であることが分かる。大きさは3寸2分。木地形態は、胴下部が台状になっており札幌時代に栄治郎が作った大寸物に近く、木地の師匠である栄治郎からの伝承であることが分かる。胴模様は桜崩し、独特のピンク色系の淡い赤の花弁と緑の枝葉が実に鮮やかである。胴左側面には、お約束の「上ノ山」の書き込みもある。これも色彩が完璧に残っているからであろう。
そして、一番の見どころは顔の表情であろう。今一度、口絵写真を見て貰いたい。面描も細い筆で描かれている。通常、この手の小寸こけしは一筆目で素朴な味を出すものだが、このこけしでは一筆目ではなく、土湯系の潰し目のような筆使いで目を描いている。下瞼の目尻は上がり気味で、何とも凛々しい表情になっている。眉にはアクセントも出ている。このような目の描き方は蔵王系では他に見かけたことがなく、誰からの伝承なのか判然としない。もっともこの目の描法を大寸物に応用するのは無理があり、小寸専用に使ったものであろう。いずれにしろ、小寸物特有の玩具っぽい雰囲気ではなく、小さくともはっきり自己主張している顔である。この手の小寸金七こけしとしては第一級のもので言えるだろう。金七の優れた力量を感じさせる逸品と言って良いであろう。
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