第2夜:遠刈田の一筆目(佐藤照雄)
昨夜は鳴子系の勘治一家の一筆目を取り上げた。遠刈田系は小寸物を除いて二側目が主体であるが、唯一、静助型のみ一筆目で描かれている。佐藤静助のこけしは昭和13年から1年間余りの間に作ったものしか残っていないため、その希少性からも人気が高く、良品の入手はなかなか難しい。しかし静助型のこけしは弟子の佐藤照雄、その息子の憲雄夫婦、静助の息子の守正によって作られており、安価に入手することが出来る。今夜は、佐藤照雄のこけしから、一筆目の魅力を探ってみよう。口絵写真は照雄こけしの表情である。
一筆目とは文字通り、一旦筆を置いたら離さずに一気に描いた目で一本線となる。但し、線の長さ、太さ、曲り具合、筆の力の入れ具合によって、この一本線は千差万別に変化する為、そこから出て来る表情は多種多様となる。目の描き方として最も難しいのかも知れない。
ここに2本の照雄のこけしを掲げる。大きさは共に8寸。右は45歳の署名があり、「39.1.4」の入手日の記入がある。左は年齢の署名は無いが、「S40.1.4 備後屋」の入手日の記入がある。製作時期にほぼ1年程の差があると考えて良いであろう。
2本の目の部分(向かって右目)を拡大してみよう。右のこけでは、全体の湾曲が少なく、筆の力は中央部でやや強くして眼点があるようにも見える。この中央部の力の入れ具合を更に強くすると、昨夜の勘治一家の目のようにアクセントが付くことになる。一方、左のこけしは湾曲が大きくなったが、筆の力はほぼ均一で線の太さもあまり変化がない。
表情全体で見ると、右のこけしは頭が横広ぎみでゆったりしているが目の訴求力は強い。一方、左のこけしでは頭は丸くなり、穏やかな笑顔に表情になっている。この2本に優劣を付けることは意味が無く、あとは好みの問題であろう。いずれにしろ、この時期が照雄のピーク期と考えて良いのではなかろうか。
千夜一夜Ⅰの第76夜では、他の時期の照雄こけしを紹介しており、それを加えて並べて見た。右端は43歳の署名があるもの、左端は40年代の中頃であろうか。頭の形、胴の形もそれぞれ変化しているが、表情、特に一筆目に注目しても湾曲が次第に大きくなっていったことが分かる。右端の素朴な表情から、中央2本のピーク期を経て、左端では安定した静助型になっている。照雄の息子憲雄の早逝が惜しまれる。憲雄妻のすみ江さんに頑張って頂きたい。
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