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第1夜:新たなる旅立ち(勘治一家)

  Kanji_ikka_kiku_kao_3 「こけし千夜一夜物語」が完結してから1か月以上が経過した。この間、完結記念のこけしプレゼントや「是伸頒布会」を企画し、お蔭様で予想以上の応募を頂いた。この場を借りて御礼申し上げます。また、多くの方々から本ブログの継続を期待する旨のご要望も頂き、フェーズⅡを始めることとした。前千夜一夜では反省する点も多々あるものの、結局そのままの形で引き継ぐことになったことをご了承願いたい。

その第1夜に、勘治一家のこけしを取り上げることが出来たことは望外の歓びであり、感謝に絶えない。福寿こけしから始まった本ブログも年数を重ねて、「高勘」系のこけしを大黒柱に据えて様々なこけしに関する話題を提供してきた。今後もご覧下さる方々に少しでも参考になれば幸いである。口絵写真は勘治一家のこけしの表情である。

大正期の「高勘」のこけし(主に4寸、7寸)は一般に「(高橋)勘治一家」のこけしと呼ばれている。当時の当主の勘治を中心に一家が参画して作られたこけしという意味合いである。この勘治一家のこけしについては、その4寸ものを前千夜一夜の第870夜で紹介した。

Kanji_ikka_kiku_3men

本項のこけしは大きさ6寸6分。勘治一家と呼ばれるこけしの大きい方である。870夜の4寸ものも保存が良かったが、本こけしもそれに勝る保存の良さである。木地にはそれなりの古色が付いているが、描彩は全く退色していない。その緑色の鮮やかさは驚愕ですらある。それがやや黒ずんでいる木地の色と馴染んで落ち着いた雰囲気を醸し出している。

先ず、全体の形を見てみよう。やや縦長の蕪頭、中央部で僅かに凹んだ胴、スマートな木地形態が美しい。その胴一杯に真っ赤な2輪の正面菊を描き、その上・中・下に緑の葉を添えた胴模様は絢爛豪華である。次いで頭部の描彩。前髪は縦に長く先端が左右に分かれた振り分け髪、それを頭頂部の真ん中で結んで後方に垂らしている。左右3筆ずつの大きな水引が美しい。鬢は前髪の下端から2筆で顎の部分まで長く伸びている。細い筆で描かれた眉と一筆目。目は中央部で筆を止めてアクセントを付けている。一筆目の極致を示すような素晴らしい筆使いである。小さな丸鼻の下には紅口をやや縦長に付けている。この描法は4寸たちこも同じである。下の写真で、一筆目のアクセントを見て頂きたい。

Kanji_ikka_kiku_me

何かを訴えるよう強い表情ではなく、静かに微笑んでいるだけであるが、それこそが鳴子こけしの原点であり、大正期の風格なのであろうか。華麗な胴模様に負けないだけでなく、見事に調和したこのこけしは大正期を代表する高勘こけしの白眉と言ってもよいであろう。
このような一筆目の見事なこけしも昭和になると見られなくなるのはどうしてだろうか?戦後30年代に入って、蒐集家の要望もあって、ようやく戦前作の復元として作られるようになる。

Kanji_ikka_kiku_hikaku

戦後の復元作(左)と本項のこけしを並べてみた。左は30年代中頃の作で、木地は盛本人ではないだろう。頭は丸頭となり胴も細くなって華奢な感じを受ける。頭の長さが短いためか鬢も短めである。しかし、眉目、鼻、口には右のこけしと相通じるものがあり、右の勘治一家の面描も盛ではないかと推測される。白い胴に明るい赤と緑の描彩は、やや軽い感じを与えるのは否めないだろう。

Kanji_ikka_kiku_atama_hikak

Kanji_ikka_kiku_soko_hikak

頭頂部と胴底を比較した写真を示す。本項のこけし(右)の胴底の「仙台鳴子 コケシ這子」の書き込みに大正期の風情が感じられる。

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コメント

祝!こけし千夜一夜物語Ⅱ。
これからもこちらのブログで勉強させて頂きます。
ありがとうございます。

こけし千夜一夜物語第二部開始、うれしいですね。
多岐にわたるこけしの話を楽しみにしています。
よろしくお願いいたします。

ピノ助様
おはようございます!
早々にコメント頂き、ありがとうございます。
何らかの参考になれば幸いです。
千夜一夜Ⅱもよろしくお願い致します。

きよみん様
おはようございます!
コメント、ありがとうございます。
なるべく幅広い話題を掲載していきたいと考えております。
千夜一夜Ⅱもよろしくお願い致します。

早速、お気に入りに登録させて頂きました。これからも面白い話をお願いします。

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