第3夜:正吾さんの乗太郎写し(国恵志堂特注)
6/12、高橋正吾さんより、佐藤乗太郎の写しが届いた。4月に鳴子を訪れた折にお願いしたものであるが、85歳を迎えた正吾さんはこの1月にお腹の手術をし、その回復過程の中での製作であった。只々感謝あるのみである。その後、入院で製作が遅れることを奥様を通してわざわざ連絡して下さる律義さは昔からのものであるが、誰でも出来るものではないだろう。出来上がった写しは期待を上回るもので、乗太郎の情味を見事に再現してくれた。今夜は、その乗太郎写しを紹介しようと思う。口絵写真はその写しの表情である。
「原」となったこけしは昨年入手した保存の良い昭和初期のもので、第971夜で紹介した。
中央が「原」のこけしで、左右が今回の写し。下膨れ気味の大きな蕪頭に肩の山の低い直線的な胴が武蔵の古い様式を残している。武蔵の古作写しを数多く作ってきた正吾さんにしてみれば木地については特に問題はないのであろうが、乗太郎の描彩は1本1本異なるため、何本か写しを作っていると、知らず知らずの内に正吾さん自身の癖が出てしまうのだそうだ。「原」こけしは左右に開いた小さな円ら目が大らかで愛らしく、乗太郎もそんな性格なのかと思っていたら、正吾さん曰く「描彩を見ていると、乗太郎は意外と緻密な性格だったのではないか」と。流石に本職の工人は見方が違うものだと感心した。面描を見ると、正吾さんの筆には勢いがあり若々しささえ感じられる。
また、この「原」こけしの特徴でもある前髪後の大きな膨らみも見事である。「原」こけしの肩の山のロクロ線は結構複雑で、内側ではやや太い緑ロクロ線と細い赤ロクロ線2本が交互に並んで鮮やかさを醸し出しているが、本写しでは、緑ロクロ線の内側の細い赤ロクロ線が1本になっている。眼も悪くなっている正吾さん、そこまで忠実にロクロ線を描かなくても、鮮やかな肩のロクロ線は十分に再現されている。
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