第9夜:政五郎再び…
今年も半分が終わり7月となった。梅雨の7最中である。さて、先月のヤフオクの昭和29年頃のこけしの中に横山政五郎のこけしが2本入っていた。8寸と5寸3分である。8寸の方は保存状態があまり良くなかったが、5寸3分の方は状態が良かったので、頑張って入手することができた。今夜はそのこけしを紹介したい。口絵写真はその政五郎こけしの表情である。
ピーク期と言われる昭和29年の政五郎こけしについては、千夜一夜1の第662夜で紹介した。そのこけしはピーク期の特徴を備えた優品であったが如何せん胴前面の褪色が激しく、保存状態の良いものが欲しいという言葉で結んでいた。今回のこけしは正にその求めていたこけしなのである。
右が第662夜で紹介したこけしで、左が今回入手のこけし。大きさは右が5寸2分で左が5寸3分。僅か1分の違いであるが左の方がよりスマートに見える。どちらも署名は無く、入手者の鉛筆書きで「横山政五郎」と「29.9.12」の記入があり、いずれも友の会の例会で入手されたものであることが分かる。左の本項のこけしは胴の彩色がはっきり残っているために、右のこけしでははっきりしなかった幾つかの点も明確になった。右では全体に古色が付いていたために胴には後年作のように全面に薄く黄色が塗られていると思っていたが、実際には、黄色は胴上下の紫ロクロ線の外側に3mm程度の太さで塗られているだけで、胴全体は木地の地色である。また、胴模様の重ね菊は赤い4段の花弁の間に緑の葉が5段に描かれており、最下段の葉は中央部の葉芯が2つ描かれていることも分かった。
次に表情を比較してみよう。頭の形、大きさはほぼ同じである。しかし表情からはかなり違う印象を受ける。その一つは目の瞼の描き方である。右のこけしでは、両目とも上瞼と下瞼はほぼ平行に描かれていて目頭・目尻とも離れている。一方、左のこけしでは両目とも下瞼の右端が上瞼にくっ付いている。そのために、右のこけしでは上下の瞼の間隔が広く、眼点も大きくなって明敏な表情となり視線は正面を向いている。一方、左のこけしでは、上下の瞼の間隔は右にいくほど狭くなり、眼点も小さくなっている。そのため表情は鋭く、視線も向かって右上方を向いている。また、二筆の口も、右では平行に描かれているが、左では下の一筆が丸く上方に曲がって上の一筆にくっ付いている。この目と口の描き方が単なる描法のバラツキなのか意図的に描いたのかは定かではない。しかし、いずれも肘折らしいグル―ミィで魅惑的な表情になっており、眺めるのが楽しい小品となっていて楽しい。
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