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第17夜:極美古作(大沼誓1)

Kosaku_sei_taisyo_kao

ヤフオクに昨年から4回に分けて出品された極美古作には鳴子系のこけしは少なかった。そんな中、第3回には1本の鳴子系こけしが出品されていた。出品タイトルでは「岡崎斉吉」となっており、岡崎系の斎や斎司かとも指摘されていた。斉吉ではないと思ったが斎の可能性も考慮しつつ、前髪と鬢のくっ付き具合と表情から大沼誓ではないかと目星を付け、「こけし辞典」を探ってみた。そこには、大正中期の作として鈴木鼓堂氏蔵の誓こけしが載っており、胴上部の鉋溝など相通じる点が見つかった。辞典の写真は小さく鮮明ではないため、より大きな写真が載っている「愛玩鼓楽」を見て見ると、2輪重ね菊の胴模様がほぼ同じ事が分かった。このような胴模様は他の工人には見られないことから、出品こけしが大沼誓のこけしである可能性が極めて高くなり、何とか手に入れたいと思った。多くの古作こけしの落札額が高額になる中、入手出来たのは幸運であった。今夜は、そのこけしを紹介したい。口絵写真は、その誓こけしの表情である。

明治23年生れの大沼誓は最初(13歳)は高橋勘治の弟子となったが14歳の冬に逃げ出し、その後兵役に就いたのち22歳(明治44年)で除隊となってからは高亀で2年間、玩具類を中心に木地を挽いた。こけしもこの頃から作ったと云われる。その後、漆沢・鳴子・中山平などで約7年間、茶櫃や盆などを挽いた。その後は病で休業状態となり鉱山に勤めた。昭和15年より復活して、以後戦後までこけしを作り続けた。

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さて、写真左が本項のこけしで、右が鈴木鼓堂氏蔵の誓こけしである。大きさは鼓堂氏蔵が8寸3分とあり、本項のこけしも8寸3分で全く同じである。木地形態は、下膨れ気味の縦長の頭にやや太めの胴、胴上部には深い鉋溝が1本入っている。本項のこけしでは、胴下部がやや裾広がりに太くなっている。鼓堂氏蔵品は色彩がはっきりしないが、「愛玩鼓楽」の解説では『胴の上部鉋溝の中が赤のロクロ線で塗られる珍しい様式』とあり、本項のこけしでもはっきりと見てとれる。面描は、鬢の様式が鼓堂氏蔵は3筆描きで、本項のこけしは多筆である点以外はほぼ同様である。大正期の大寸の誓こけしは鼓堂氏蔵以外には知られておらず、本項の極美こけしでその細部まで鮮明に鑑賞できることは喜ばしいことである。

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本項のこけしを3面から見てみよう。大正中期と云われる古作であるが、その保存状態の良さに驚かされる。未だあまり手慣れていない時期の作なのであろうか、前髪、鬢、眉、目・鼻など、丁寧に描かれているのが分かる。頭頂部の水引は後ろ髪を中心に3筆描きを四方に放射状に描いている。肩の山はやや大きめで、肩上面から山部にかけて太い赤ロクロ線で塗りつぶし、その上に細い赤ロクロ線を2本、首に近い部分には太い赤ロクロ線で締めている。後年、誓自挽きのこけしでは肩の高い山に3本の太い赤ロクロを引くのが特徴になっているのであるが、その原型と見ることも出来るだろう。胴上部には深い鉋溝が掘られ、その溝の中を赤く塗りつぶし、その上下にも細い赤ロクロ線を引いている。緑のロクロ線は引かれておらず、胴上下はややピンクがかった鮮やかな赤色で華やかに飾られている。胴模様は横菊を2段に重ね、緑の添え葉を描いている。花弁の多い横菊は高亀様式に似ている。この横菊を3段に重ねれば、高亀の重ね菊になりそうである。鼓堂氏の誓こけしでは色彩が飛んで黒くなっているためか、ある種の迫力を感じたのであるが、本項のこけしを見ると、上品でお淑やかなおぼこいこけしという感じが強い。大正ロマンを感じさせるこけしと言っても良いであろう。


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写真左は、70歳の誓こけしである。こうして最初期と最晩年のこけしを並べてみると、そこには半世紀近い時間差があるにもかかわらず、同じ誓こけしとしての雰囲気を持っている。工人によっては作風が大きくかわるものもあり、大沼誓も胴の形態、模様など相当の変化をしているが、根底に流れるものは変わらなかったのであろう。

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