第20夜:極美古作(新山栄五郎)
昨年から計4回に渡り出品された極美古作では弥治郎系のこけしが相当数含まれていた。しかし、新山栄五郎のこけしは最終回の1本だけであった。有名な髷付きのこけしではなかったが、その雄大な横広の平頭に惚れて、何とか欲しいものだと思ったものである。幸いなことに何とか入手することが出来たので、今夜紹介したいと思う。口絵写真はその表情である。
新山栄五郎の古いこけしとしては、「図譜『こけし這子』の世界」掲載の9寸5分と「こけし古作図譜」掲載の9寸が有名である。いずれも大きな頭に髷を乗せ、三等身の形態が目を見張る豪快な作で大正期の作とされる。
写真左が本項のこけしで右は「こけし古作図譜」の栄五郎である。本項の栄五郎の頭は極端な程の平頭であるが、こうして比べて見ると、右のこけしから髷を取った形に他ならないのが分かるのである。また、右のこけしでは「木の花」では「八の字形の前髪と三ツ山の赤点」と称された前髪と飾りが付いているのであるが、これは左のこけしでも同様に付いており、しかも前髪は三筆描きであることが分かるのである。眉・目・鼻・口に頬紅の面描、大きな鬢もほぼ同様と言って良いであろう。但し、右のこけしにある3筆の紅い鬢飾りと耳は、左のこけしには描かれていない。
さて、次の写真の右は「こけしの美」に掲載されている9寸2分で昭和初期の作とされる。こちらのこけしでは三筆の前髪が無くなり、三ツ山の赤点のみ残っている。また、頭頂部には大きな中剃りがあり、その周りに黒いロクロ線で輪を描き、その先端に髪を描いている。一方、左のこけしでは中剃りは無く、中剃りにあたる部分を丸いロクロ線で塗り潰し、その部分から長い黒髪を手描きしている。この辺りも栄五郎こけしの頭頂部の様式の変化を見るようで興味深い。
では、本項のこけしの全体像を見てみよう。大きさは7寸8分。横広の大きな頭に、中央やや上で絞った細身の胴の形態が素晴らしい。そして、その保存の良さである。正に今描いたばかりかと思う程の色彩の鮮やかさである。胴のロクロ線は紫と赤の太線を基調にし、そこに緑の細線を加えている。赤の太線が木地に滲んでいるのも好ましい。この中寸クラスのこけしでは波線は入れないのであろう。次に表情であるが、眉・目にはアクセントが付いているが、その部分の墨が薄くかすれ気味になっているため強い表情にはならず、やや眠たそうな大らかな表情となっている。前髪横の赤いカセは左右7筆であるが、外側2筆が大きく長く伸びて鬢の後を覆うように垂れている。そのために、わざわざ耳は描かなかったのであろう。
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