第19夜:極美古作(斎藤太治郎)
国恵志堂のこけし収集のきっかけの1つは「こけし 美と系譜」で見た太治郎・弘道のこけしであった。以来、弘道、正一、太治郎のこけしは重点的に収集するこけしの1つとなっている。しかしながら、戦前、垂涎の太治郎こけしはそう簡単に集まるものでもなく、ましてや大正期の作となれば殆ど諦めていたものであった。そんな大正期の太治郎こけしが、しかも保存極美の状態でヤフオクに出品されたとなれば触手が動くのも仕方ないだろう。この太治郎こけしは昨年の第2回に1本、今年の第3回と第4回に1本ずつ、都合3本出品された。ほぼ同時期と思われるこけしであったが、形や面描などには少しずつ違いがあった。その中で第3回出品の1本には特に惹かれ、相当の覚悟でオークションに参加した。幸いなことに可能な範囲で入手することができたので、紹介したい思う。口絵写真は、その太治郎こけしの表情である。
こちらが、出品された3本のこけしである。左から第2回出品作(20.5cm)、第3回出品作(25cm)、第4回出品作(22.5cm)。胴のロクロ線模様の特徴(首下に3本の緑ロクロ線、赤と紫の波線は2段、胴下に2本の赤ロクロ線)から、いずれも大正中期の作と推定される。胴は細身であるが、頭の形には違いが見られる。
こちらが、今回入手の太治郎こけし。大き目な頭に細い胴の木地形態が美しい。全く退色のない胴の色彩は目を見張るばかりである。前髪は19本と非常に多く、大きく長く伸びた眉の上辺に触れんばかりである。顔の中央やや下に描かれた瞳は小さく円らである。大きめの細い鼻と三筆の口に紅を差している。若々しい表情である。胴は細身で直線的、中央からやや〈下でかすかに膨らみ、胴裾部で窄まっている。ロクロ線は、首下から赤ロクロ線、3本の緑ロクロ線、赤の波線、紫の波線、赤の波線、紫の波線、太い赤ロクロ線2本、太い紫ロクロ線、細い紫ロクロせん、畳付き部には木地の余白がある。紫の波線のバックに引いた緑の細いロクロ線が粗いのも大正中期の特徴である。
同型の弘道こけし(左)と並べて見た。弘道は昭和42年頃に大正期の太治郎を追求したこけしを作った。胴はやや太めであるが、筆数の多い前髪、胴のロクロ線の様式など忠実に写していることが分かる。
こちらは表情の比較。このように並べて見ると違いは明白となる。特に目の描き方はやや異なるようだ。弘道の目は下瞼が長めである。このこけしでは未だ顕著ではないが、この後の弘道作では、向かって右目の上瞼が下瞼の内側に喰い込むようになる。太治郎の目にはそのような特徴は殆ど見られず、弘道の目は意識的な感じがする。
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